いろんな事が思い出して行く。
けして怖い人じゃなかった。本当は、誰よりも
優しくて気遣いが出来る温かい人。
この人の事を知れば、知るほど好きになった。
かけがえのない人になっていくのが分かった。
でも…それだけじゃダメ。好きになるだけでは。
私が彼にしてあげられるのは、これぐらいしかない。
「でも……ダメなんです。課長とじゃあ、私は、幸せになれない。
だから……もう終わりにして下さい。
そして、海外に行って下さい」
泣きたいのを必死に我慢しながら伝えた。涙引っ込め……。
課長に後悔させないためにも我慢しないと。
私は、後ろを向いた。 涙に気づかれないように
「……松井……お前……」
「……私……昔から諦めのいい方なんです。
立ち直りも早いし。きっと課長の事なんてすぐに
忘れて他に好きな人が出来ているかも
八神さんもまだ私のことを好きだと言ってくれてるし
乗り換えようかなぁ~なんて……」
お願い……。受け入れて……心が揺らぐ前に。
「そうか……分かった」
課長は、静かにそう呟いた。言葉が出てこない。
涙が溢れ……これ以上何も言えなくなってしまう。
「松井……悪かったな。嫌な役をやらせて……じゃあな」
最後にそれだけ言うと立ち去って行く。
課長は、すべて見透かしていた。
私の想いも決意も何もかも……。
分かった上で私の決意を受け入れてくれた。
最後まで優しい人。 そして……温かい人だった。
泣きながら座り込んだ。なんて……馬鹿な事をしたのだろう。
決心したはずの自分の気持ちが崩れ落ちた。
後悔と課長への想いが……私の中で溢れかえる。
「……ごめんなさい。本当に……ごめんなさい」
何度も何度も謝罪をする。課長に聞こえる訳がないのに……。
冬の夜空は、そんな私に冷たい風となって吹き抜けていった。