そう言ったのは、1人の男性社員だった。
うっ……そう言われると胸が痛んだ。確かにそうなのだ。
こんな出世を断る人の方がおかしいのだろう。
「……私には何も言えませんがそういう話は、あるみたいです」
周りは、さらに騒ぎ出した。
驚く者や喜ぶ者も多くなおさら否定もしにくい。
やはり課長は、部長になるべき人なのだろう。
断るような馬鹿な事は、してはならない。
「でも、だとすると亜季は……どうするの?ついて行くの?」
「私は、行かないわ。大きな仕事があるし
そのために頑張ってきたんだもの。
それに英語だって話せないし、とても無理よ」
「どうして?じゃあ、遠距離になるの?
亜季……それでいいの?」
美奈子は、それを聞いて驚いていた。
良くはない……でも。ついて行く勇気はなかった。
それに大切な仕事があるのに……。
そうしたら課長がいつものように出勤してきた。
「おはよう。何だ?
またお前らは、騒ぎを起こしているのか?」
「おはようございます。課長、聞きましたよ!?
海外で部長になる事が決まったらしいですね?」
「凄いです。さすが課長!!」
皆は、尊敬の眼差しで言っていた。課長は、驚きながら
「お前ら……いつの間にそんな情報を!?
まったく噂だけは、仕入れるのが早いな……」と
呆れながら言ってくる。
私は、後ろで黙ってその光景を眺めていた。
課長の本来あるべき姿だ。
きっと私なんかでは太刀打ちが出来ないほど大きいのだろう。
近いようで遠い存在……。
「しかしお前ら喜んでくれるのは、嬉しいが俺は……」
「課長は、引っ越しの準備で忙しいらしいですよ?
海外は、持って行く物が多いみたいですから」