するとそれを見ていた店長が声をかけてきた。
「どうして言ってやらなかったんだ?
一緒に来て欲しいってさ」と言っていた。

「……言えませんよ。 今彼女には、大きな仕事が舞い込んでいるんです。
 ずっと頑張ってきたのに、それを潰させることなんて出来ない。
 海外だなんて、苦労させるようなものだ。
英語に文化……何もかもが違う。彼女に苦労なんかさせられない」

「優しいと言うのも時には罪だねぇ~まぁ、
そこが櫻井さんのいい所でもあるんだが……」

店長がそう呟いた。課長は、黙ってそれを聞いていた。
 私は、そんなやり取りをしているとは知らずに
耐えられなくなってお店から飛び出してしまった。涙が溢れてくる。

 まさか、衝撃的な言葉を聞くなんて。
噂だけであってほしかった。

「……課長……」

本当は、行ってほしくない。
 せっかく課長も行かないって言ってくれたのに
自ら棒に振っているのは、自分じゃない。
 やっと両思いになれて一緒に歩いて行けると思ったのに。
1人トボトボと泣きながら歩いた。寒い……心も凍えそうだ。

「あれ?亜季……?」

 この声は……。振り向くと八神さんだった。
あぁ、また泣いている所を見られてしまった。
 どうしてこの人には、情けない姿ばかり見られるのだろう。

「泣いているの?また、どうして…?」

「泣いていませんよ……全然」

 八神さんは、心配そうな表情をしてきた。
私は、慌てて涙を拭いた。
 平気な顔をして笑顔を見せる。かなり無理やりだけど……。

「……亜季……」

「偶然ですね?ここで会うなんて。じゃあ、私は……急ぎますので」