こんなにも課長の前でムキになったのは、初めての事だ。
課長は、咳払いをすると少し言いにくそうに説明をしてくれた。
「実は、今年の夏頃からそう言う話は、来てたんだ。
言っておくが、飛ばされるんじゃないぞ?
海外……アメリカの会社から部長としての就任命令だ」
「えっ……?」
混乱する頭を必死に整理させた。
つまり課長は、アメリカの会社に呼ばれたと言うこと?
部長として出世するために。
「決断を早くしろと言われていたのだが、まだあの時は、迷っててな。
部長になれるのは、大変名誉な事だしありがたいのだが
あの時は、まだお前とお見合いをしていなかったし
どうしても踏みとどまってしまって」
恥ずかしそうに課長は、話してくれた。
本来なら喜んでお祝いのコメントを言う所なのだろう。
でも私は、頭が真っ白になって口に出せなかった。
「課長……その話は、受けるんですか?」
もしそうなら……課長は、海外に行ってしまう。
離れ離れになってしまうの?
私の脳内は、そう考えてしまった。
「いや。本来なら社員である以上余程の理由が無い限り断れないのだが
何とか言って断るつもりだ」
「な、何故ですか?せっかく部長として出世が出来るのに」
「だが……海外に行ったら君にも会えなくなるし」
思わずそう言ってしまう私に課長は、迷っていると分かった。
自分も動揺をしていた。課長に行ってほしくない。
ずっと私のそばに居てほしい……でもそれって
せっかくの出世を潰してしまう事になる。
それで、本当にいいのだろうか……?
私のせいで課長の出世を潰させて。
考えれば考えるほど頭が混乱状態になった。
「心配をかけてすまない。まぁ、断るつもりだったから安心しろ。
別に出世しなくても課長で十分に満足しているし」