私は、慌てて課長の元に駆け寄って行く。
今の私は、きっと課長のように真っ赤だろう。
 おかしい…さっきまで恐怖としか思わなかった
課長が少し可愛く見えてきた。

 私は、どうしたらいいのだろうか?
お見合いを断るはずだったのに……。
 断る理由が思いつかない。それより
もっと照れた課長が見てみたくなっていた。
 何より知りたくなっていた。

 そのままお見合いは終わってしまったが
ずっと課長の事を考えていた。
 翌日になってもチラッと櫻井課長のことばかり
目で追ってしまう。
 本人は、相変わらず怖い表情で黙々と書類を見ていた。いつもの課長だ。

 本当に昨日と同一人物なのだろうか?
私の事…好きでいてくれてるのだろうか?
 まるで夢を見ていたような感覚だった。

「どうしたの?
さっきから課長をチラチラ見て?」

 あんまり見るものだから美奈子が
私に声をかけてきた。えっ!?
そんなに見ていた?

「あ、別に…お茶淹れてあげた方がいいか
迷っていて」

「あぁ、タイミングとか
難しいよねぇ~課長の場合は」

「…そうそう」

 良かった…気づかれていないわ。
美奈子にも言いづらいもの。
 お見合いをしたなんて……恥ずかしいし。

「お茶…淹れてくるわね」

私は、そそくさと席を外した。
 そして、そのまま給湯室に向かった。
やっぱりお茶を淹れよう。
 少しぐらい話とか出来ないかしら?

きっかけになればと課長と私と美奈子の分を用意する。
 課長にお茶を淹れる時は、いつも緊張していた。
 他の子達も言っていたがタイミング悪いと
睨まれる事もあるからだ。だけど
 昨日の課長を見ていたら違う気がしてきた。

何が理由があるのかも?
 そう思いながらお茶を注ぎ終わると
タイミングを見て課長のデスクに置いた。

「あの……課長。お茶をどうぞ」