課長……さすが。
一言で全員をまとめるなんて凄いと思った。
私は、そんな事を考えていた。
自分もデスクに戻ると美奈子がこっそり
「あんたの彼氏…相変わらず怖いわね?
これぐらい、いいのに…」と愚痴ってきた。
「アハハッ……」
私は、苦笑いする。
彼氏じゃないんだけどな。さすがだと思うのは、
どうやら自分だけのようだった。
そして昼休み。私と美奈子は、近くのお店で
ランチを済ませると部署に戻った。
途中で賑やかそうな大群を見かける。
その中心に居たのは、やっぱりあの涙を見られた男性社員だった。
名前は、確か八神さんだったからはず……。
「凄い人気……あ、あの人よ!?亜季。
朝言っていた異動してきたイケメン社員」
「……そうみたいね」
心の中でやっぱりと思った。
とにかく気づかれたら気まずい。
何とか顔を見られる前にこの場を去らないと……。
しかし遅かった。
「あれ?松井さん」
ギクッと突然名前を呼ばれ心臓が飛び出るかと思った。
気づかれてしまった……。
しかも他の女性社員が居る前で呼ばないでよ!
「えっ?亜季もしかして知り合いなの?」
返事に困ってしまった。
会ったのは、昨日だけで知り合いでも何でもない。
ただ嫌な所を見られただけなのに。
「松井さん。見かけたのなら挨拶してくれたら良かったのに」
そう言いながら大勢居る中、私に近付いてきた。
気づいて欲しくなかった。
いや、むしろ無視してくれた方がありがたかったのに。
仕方がないので顔が引きつるが笑顔を見せた。
「これは、八神さん。こんにちは……」