「櫻井さん。櫻井亜季さん」

「あ、はい」

 慌てて呼ばれた方を見る。
そうしたら意外な人物に遭遇してしまった。
 えっ?青柳さん……!?

「えっ……松井さん?」

 目の前に立っているのは、青柳さんだった。
えっ?何で……こんな所で!?
 意味が分からずに困惑してしまう。

 あ、そういえば自動車関係の仕事をしているって
言っていたような気がするわ。
 あの時は、課長の事で頭がいっぱいだったから。
私は、お礼を言うため慌てて頭を下げた。

「あの……あの時は、ありがとうございました!!」

「上手くいったんだな。
苗字が変わっていたから気づかなかった」

 物静かな言い方をする青柳さん。
あぁやっぱり。相変わらず雰囲気や口調が課長に似ている。

「……はい。お陰様で無事に結婚して
1歳になる息子も居ます」

 少し照れたように報告した。
青柳さんには、本当に感謝しないといけない。
 この人が背中を押してくれなかったら私は、ずっと後悔していただろう。
 海外まで追いかける勇気なんて持てなかった。

「お礼を言われる必要なんてない。
俺は、あくまで自分の意見を言ったまでだ!」

 青柳さんは、目線を逸らしながらそう言ってきた。
フフッ……相変わらず無愛想な人ね。
 照れると目線を逸らす所なんて本当に課長に似ている。

「フフッ…お仕事は、教習所の教官だったんですね?」