「あの……ご馳走様でした」

「いや、こちらこそ悪かったな。じゃあ……」

 お店を出るとお礼を言う。
そう言うと立ち去ろうとする青柳さん。
 「あの……」と思わず慌てて止めてしまった。

何故止めたのか分からない。
 だけど、止めないといけないような気がしてならなかった。
どうしてか分からないけど……。

「……何?」

 青柳さんは、振り向いてきた。
止めた理由を何も考えていなかったため戸惑ってしまう。
 な、何か言わなくちゃあ……。
えっと……頭の中が混乱してきた。

「よ、良かったらメアド教えて下さい」

「はぁっ?」

青柳さんは、驚いて聞き返した。
 自分でも何を言い出すんだと思い身体中が熱くなってしまう。
 どうも時々大胆な事を言う時がある。
必死で引き留めようとすると出てしまうらしい。
 課長の時もそうだった。

 積極的に行かなくちゃあ…と言う焦りなのか
ただの無鉄砲なのか分からないけど……。

「いえ……いま言った事は、忘れて下さい」

 火照る顔を隠すように下を向いた。
馬鹿な事を言ってもダメ。彼は、課長じゃないんだから……。

「別にいいけど」

「えっ……?」

 驚いて思わず頭を上げた。
今、確かにいいって言ったわよね?聞き間違い……?
 青柳さんを見ると黙って私を見つめていた。