だけど、別れてしまった私達は、もう何も出来ない。
自宅に着くとスマホを覗き込む。メールの着信0件。
あれから課長とは、メールをしなくなった。
別れたのだから当たり前だけど……寂しい。
別れてアドレスを消す人。
未だに残したり、連絡を取り合う人。
私は、ずっと消さずに残してある。
もしかしたらメール来るかも……とかそんな事をつい考えてしまう。
課長は、生真面目で気遣う人だから遠慮して送って来る訳がないのに……。
未練タラタラで本当、何をやっているんだか……私。
大きなため息を吐きながら過ごしていた。
だが、時間は、待ってはくれない。
あっという間に課長が飛び立つ日が来てしまった。
もちろん私は、見送りに行かなかった。
別れた私が行っても逆に迷惑をかけるだけ。
笑顔で見送れる自信なんてない。
会社の窓から課長が乗るかもしれない飛行機をただ眺めていた。
さようなら……と心の中で呟きながら
そして課長が飛び立ってから何十日が経った頃。
仕事は、通常に戻り担当になった遊園地の企画書の製作に打ち込んでいた。
すると私達の部署に新しい課長を迎える事になった。
次の課長は、経理課から異動してきた田中課長。
50代ぐらいの中年男性。経理課で課長だった人だ。
櫻井課長と違って物腰の柔らかい人で
怒る姿とか想像が出来ない感じだった。周りは、
「櫻井課長と違って怒られないからやりやすい」と言っている人も居れば
「櫻井課長と違って頼りない。こんな人で大丈夫なのか?」と不安になる人も多かった。
意見は、様々だ。
私は、そんな言葉を気にすることもなく
田中課長がデスクに座っている姿を見ては、課長の姿と重ね合わせていた。
まるで、まだあそこに座っているかのように。
「亜季。あんた……また田中課長の方ばかり見てるわよ?大丈夫?」
「あ、ごめん。いけない、いけない。私ったら…」
アハハッと誤魔化すように笑った。
いけない。どうやらダメだと分かっているのに
無意識にやっていたようだ。