それでも理性を保ち必死に否定した。
流されてはならない。だって、そのたびに左手の薬指に光る
シルバーの結婚指輪が私の視界に入るからだ。
彼は、既婚者。どう想ったって叶うはずがない。
いや…想うこと自体間違っている。
彼は、あくまでも社長で私は、秘書。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから余計に胸が痛むのに……。
「もういい加減にして下さい!!
セクハラだしやめて下さいってば……」
「こら、暴れるな!?キスをさせろ」
「嫌ですって……んっ」
なんて強引な男なのだろうか。
嫌がる私に無理やりキスをしてくる社長。
私の気持ちを翻弄するだけで分かってくれない。
いや……分かろうともしない。
その後、服を脱がそうとしてくるので
必死に拒み私だけがヘトヘトになってしまった。
いつか奪われるかもしれない……。私の純潔が。
なのに、張本人である社長は、爽やかな笑顔で取引先に挨拶していた。
こいつ……。何、爽やかにキメてるのよ!?
人の苦労も知らないで……。あぁ、もの凄く腹が立つ!!
だが、落ち着くのよ…私。
今は、大事な取引先と打ち合わせ中。
社長に恥をかかせる訳にはいかない。そう…大人になるのよ!
自分に何度も言い聞かせた。そして
落ち着きを取り戻し後は、仕事をこなした。
これも秘書の仕事なのだ。
商談も終わり私は、車の手配をする。
えっと…次は、会社に戻り今後の打ち合わせと
計画書の確認をしてもらって……。
電話を切りながらタブレットを使い
今後のスケジュールをチェックする。
「社長。車の手配をしましたので。もうすぐ…あれ?」