彼女の荷物を積んだ車はそのまま大型のショッピングモールに向かった。

「何か買い物ですか?」

「そうだね。まだ足りてないものもあるし、車の中もまだ余裕があるからついでに何か必要なものをって思ってさ。欲しいものがあれば何でも言ってくれて良いから。」

「ほんとですか?やったね。」

何か吹っ切れたようで少し彼女は元気になっていた。

普通の日の午前中。ショッピングモールの中は奥様方か暇を持て余した大学生くらいしかいない。その中でスーツ姿の2人。少し周りからは浮いていたかもしれない。彼女は就活生に見えなくもないが明らかに自分はおかしい。

まず。昼も近いという事でお店が混む前に昼食を済ませた。コンビニで買ったものもあるがそれは夜にでも食べればいいだろう。少し吹っ切れた彼女は自分をいろいろなところに連れまわした。服から化粧品、男性なら入る事に躊躇する女性ものの下着の店。気づけば3時間。女性の買い物はどうしてこうも長いのか。自分には理解できなかった。途中、映画館があり彼女が

「この映画見たかったんですよね。昨日見にいく予定だったんですけどあんな事になって。」

吹っ切れたと言ってもまだ心残りがあるようだった。

「なら俺で良ければ今から一緒に見るか?」

「ほんとですか?みたいです。」

「せっかく時間がある事だし、何より少し疲れたからな。放映時間もちょうどいいみたいだから、遠慮する事ないよ。」

2人分のチケットを買い、飲み物を買って席についた。特に離れる理由がなかったため席は隣同士だった。その映画は恋愛もので主人公の彼女が死んでしまう少しありきたりな内容のものだった。ありきたりということはその内容で名作がいっぱい生まれているということで決して面白くないというわけではない。むしろ最近は気をてらった作品が多すぎて正直その作品の世界観についていけないものがある。こう言ったシンプルで面白いものの方が自分は感情移入しやすくていい。

「先輩これどうぞ。」

隣で見ていた彼女にハンカチを手渡された。その顔は少し驚いたような表情だった。少しだけ映画の世界から現実に戻ってきた。感情移入しすぎたのか自分の頬には涙が伝っていた。

「ありがと。」

彼女からハンカチを借りて頬伝っていた涙をふく。それを彼女に返そうとすると、

「借りたままでいいですよ。先輩少し涙脆いみたいですし。」

少し笑顔を見せながら、彼女は言う。

「じゃあお言葉に甘えようかな。」

しかし借りたはいいものの集中しているときは自分が泣いていた事に気づかない。借りたハンカチは手で握りしめていた。

映画の放映が終わり、外に出る。自分の目は泣いた影響か少し赤くなって、頬を伝っていた涙も乾燥していた。彼女にトイレに行ってくると伝え、顔を洗いに行った。

「先輩って意外と涙脆いんですね。かわいいところあるじゃないですか。」

「そうか?感動したり、悲しい時なら泣くだろ人間なら。」

「でも男性ってそういうところあまり見られたくないじゃないですか。なんか我慢している印象が強くて。」

「そういうもんかな。」

「そうですね。でも、先輩みたいにちゃんと感動していることを表現できる人の方が印象も好意も持てますし。」

後半の方はモゴモゴしていて聞き取れなかった。何かいいことを言われたような気はするが。それを言い切ると彼女はトイレに向かっていった。