「勇者さん、こんにちわー」
「おう、今日はいきなり腹減ったって言わないんだな」
「……勇者さん、私をどれだけ腹ペコだと思ってるんですか。まだ晩ご飯の時間になってませんよ。早めにお仕事終わったから、勇者さんの様子を見に来たんです」
「捕虜がどう過ごしてるかチェックするのって仕事だと思うんだが……その、お前ちょっと働きすぎじゃないか……?」
「私個人としては仕事じゃなくてお客さんに会いに来てるだけですもん」
ぷぅ、と少しだけ頬を膨らませて不機嫌を表現してくる。なんでコイツ、所作がいちいち可愛いんだろう。
「まあ、そういうことなら良いけどさ。俺も話し相手がいるとありがたいしよ」
「はい♪ そういうことなので、良いのです♪」
会いに来てくれたことは素直に嬉しいので、俺はそれ以上、なにも言わないことにした。
なぜか魔王の機嫌はすぐに直ったようで、ニコニコと笑顔を浮かべて、こちらに近寄ってくる。
身長差の問題で、どうしても胸元が見えるのが気になるが、指摘するとセクハラなので俺はいつも通りに目を逸らした。
「えへへ……勇者さん、ご機嫌はいかがですか?」
「……まあ、フツーだよ。なぁ、魔王」
「なんですか?」
「お前、いつもその格好だよな」
「あ、この服ですか?」
スカートを翻して、魔王はその場で一回転した。
ただでさえ短い、しかもスリットまで入ったスカートは魔王の動きに合わせてふわりと浮かび上がってしまう。
慌ててスカートの端を押えたくなる衝動に耐えて、俺はなるべくなんでも無いような顔をして言葉を作った。
「回るな。スカート短いんだから。めくれるだろ」
「え、ウソ!? 見えてました!?」
「いや、危険性の話でな……見えてない見えてない」
「そ、そうですか。良かったです……」
魔王は心底ほっとした様子で、衣服を整えた。
というか、恥ずかしいなら着なければ良いだろうに。
「そんな服しかねぇのか、お前」
「そんなわけないじゃないですか! こんなえっ……えっ……えっちな服ばっかりもってるわけじゃありません!」
えっちな自覚はあったのか。喉まで出かかった言葉を俺は飲み込んだ。
それを言ってしまったら、今度の関係性に問題が生まれそうだったからだ。
「ちゃんと私服もありますよ! ……着る機会があまりないだけで」
「……私服、っていうと、じゃあその服は?」
「これは制服です!」
「……魔王に制服とかあるのか」
初耳だったが、今まで魔界語やら魔界チェスやらで驚かされているので、今回は首を傾げる程度の驚きで済んだ。
「人間も政治家さんとか学生さんは、ちゃんとした、と言いますか、ビシッとした服着てるでしょう?」
「あー……なるほど、国王とか、見るからに偉そうなマントと王冠だったもんな……」
「それと同じで、これも魔王の執務用の制服でして……まぁ、仕事してますってポーズも込みですよ」
「……そのわりに、やたら、こう……」
「? やたらこう……なんですか?」
突っ込むべきか突っ込むまいか。
少しだけ迷ったものの、結局俺はなるべく言葉を選んで言うことにした。
「いや、な……胸元は開き気味だし、スカートは短いし……ストッキングだし」
「あ、正確にはパンストです。暖かいですよ」
「……その上でマントだし」
「パンストとマントは絶対必要らしいですよ。よくわかりませんが」
「……なんでそんな格好になったんだ」
「国民投票です」
「は……?」
「いえ、えーと……人間語だと……こほん。……『魔王様制服コンテスト』って感じのものを、昔やりまして……たくさん出てきたデザイン案の中で国民投票して、これに決まったんですよ」
「…………」
つまり魔界中で投票した結果、魔王の格好は痴女……とまではいかないまでも、ややきわどい感じの服装になったらしい。
もしかして魔族、そこそこ頭おかしいんじゃないだろうか。
「そ、そんな微妙な目をしなくても……私は制服なんてなんでもいいって言ったんですよ? そしたら部下が、『じゃあ国民に決めてもらおうぜ!』とか言い出したらしくて……私のセンスじゃありませんからね!?」
「……とりあえず魔界のやつも、人間とそんなに変わらねぇのはわかったわ。……テンションと性癖が」
「せ、せいへ……う、うぅ……なんか恥ずかしくなってきました……」
「もう見慣れたし、その格好でも気にしないけどな」
と言いつつ、たまに胸元や太ももが気になってしまうので、俺も男だった。
「いえ、なんか悔しいので、今度私服持ってきます!」
「……まぁ、別にいいけどよ」
それはそれで、ちょっと見てみたい気もするし。
魔界の女王のファッションセンスがやや気になりつつも、俺は今日の夕食の仕込みのために台所に立つことにした。
「……で、今日は飯いらないのか?」
「いります!」
「即答かよ」
「むしろもう、料理番に今日のご飯いりませんって言って来ちゃいましたから、勇者さんがご飯作ってくれなかったら泣いちゃいますよ?」
「腹ペコで魔王が泣く……それはそれで、ちょっと見てみたい気も……」
「え……勇者さんって、もしかしてドSなんですか?」
「お前、妙な人類語覚えてるな……まあ、いいけど」
なんだかんだ言いながら、この雑談の時間を心地よいと感じている自分がいることを自覚しながら、俺はふたり分の献立を考え始めるのだった。
「おう、今日はいきなり腹減ったって言わないんだな」
「……勇者さん、私をどれだけ腹ペコだと思ってるんですか。まだ晩ご飯の時間になってませんよ。早めにお仕事終わったから、勇者さんの様子を見に来たんです」
「捕虜がどう過ごしてるかチェックするのって仕事だと思うんだが……その、お前ちょっと働きすぎじゃないか……?」
「私個人としては仕事じゃなくてお客さんに会いに来てるだけですもん」
ぷぅ、と少しだけ頬を膨らませて不機嫌を表現してくる。なんでコイツ、所作がいちいち可愛いんだろう。
「まあ、そういうことなら良いけどさ。俺も話し相手がいるとありがたいしよ」
「はい♪ そういうことなので、良いのです♪」
会いに来てくれたことは素直に嬉しいので、俺はそれ以上、なにも言わないことにした。
なぜか魔王の機嫌はすぐに直ったようで、ニコニコと笑顔を浮かべて、こちらに近寄ってくる。
身長差の問題で、どうしても胸元が見えるのが気になるが、指摘するとセクハラなので俺はいつも通りに目を逸らした。
「えへへ……勇者さん、ご機嫌はいかがですか?」
「……まあ、フツーだよ。なぁ、魔王」
「なんですか?」
「お前、いつもその格好だよな」
「あ、この服ですか?」
スカートを翻して、魔王はその場で一回転した。
ただでさえ短い、しかもスリットまで入ったスカートは魔王の動きに合わせてふわりと浮かび上がってしまう。
慌ててスカートの端を押えたくなる衝動に耐えて、俺はなるべくなんでも無いような顔をして言葉を作った。
「回るな。スカート短いんだから。めくれるだろ」
「え、ウソ!? 見えてました!?」
「いや、危険性の話でな……見えてない見えてない」
「そ、そうですか。良かったです……」
魔王は心底ほっとした様子で、衣服を整えた。
というか、恥ずかしいなら着なければ良いだろうに。
「そんな服しかねぇのか、お前」
「そんなわけないじゃないですか! こんなえっ……えっ……えっちな服ばっかりもってるわけじゃありません!」
えっちな自覚はあったのか。喉まで出かかった言葉を俺は飲み込んだ。
それを言ってしまったら、今度の関係性に問題が生まれそうだったからだ。
「ちゃんと私服もありますよ! ……着る機会があまりないだけで」
「……私服、っていうと、じゃあその服は?」
「これは制服です!」
「……魔王に制服とかあるのか」
初耳だったが、今まで魔界語やら魔界チェスやらで驚かされているので、今回は首を傾げる程度の驚きで済んだ。
「人間も政治家さんとか学生さんは、ちゃんとした、と言いますか、ビシッとした服着てるでしょう?」
「あー……なるほど、国王とか、見るからに偉そうなマントと王冠だったもんな……」
「それと同じで、これも魔王の執務用の制服でして……まぁ、仕事してますってポーズも込みですよ」
「……そのわりに、やたら、こう……」
「? やたらこう……なんですか?」
突っ込むべきか突っ込むまいか。
少しだけ迷ったものの、結局俺はなるべく言葉を選んで言うことにした。
「いや、な……胸元は開き気味だし、スカートは短いし……ストッキングだし」
「あ、正確にはパンストです。暖かいですよ」
「……その上でマントだし」
「パンストとマントは絶対必要らしいですよ。よくわかりませんが」
「……なんでそんな格好になったんだ」
「国民投票です」
「は……?」
「いえ、えーと……人間語だと……こほん。……『魔王様制服コンテスト』って感じのものを、昔やりまして……たくさん出てきたデザイン案の中で国民投票して、これに決まったんですよ」
「…………」
つまり魔界中で投票した結果、魔王の格好は痴女……とまではいかないまでも、ややきわどい感じの服装になったらしい。
もしかして魔族、そこそこ頭おかしいんじゃないだろうか。
「そ、そんな微妙な目をしなくても……私は制服なんてなんでもいいって言ったんですよ? そしたら部下が、『じゃあ国民に決めてもらおうぜ!』とか言い出したらしくて……私のセンスじゃありませんからね!?」
「……とりあえず魔界のやつも、人間とそんなに変わらねぇのはわかったわ。……テンションと性癖が」
「せ、せいへ……う、うぅ……なんか恥ずかしくなってきました……」
「もう見慣れたし、その格好でも気にしないけどな」
と言いつつ、たまに胸元や太ももが気になってしまうので、俺も男だった。
「いえ、なんか悔しいので、今度私服持ってきます!」
「……まぁ、別にいいけどよ」
それはそれで、ちょっと見てみたい気もするし。
魔界の女王のファッションセンスがやや気になりつつも、俺は今日の夕食の仕込みのために台所に立つことにした。
「……で、今日は飯いらないのか?」
「いります!」
「即答かよ」
「むしろもう、料理番に今日のご飯いりませんって言って来ちゃいましたから、勇者さんがご飯作ってくれなかったら泣いちゃいますよ?」
「腹ペコで魔王が泣く……それはそれで、ちょっと見てみたい気も……」
「え……勇者さんって、もしかしてドSなんですか?」
「お前、妙な人類語覚えてるな……まあ、いいけど」
なんだかんだ言いながら、この雑談の時間を心地よいと感じている自分がいることを自覚しながら、俺はふたり分の献立を考え始めるのだった。