ぱたんと、ドアを閉じる。
見慣れた自分の部屋に入った瞬間、
「っ……」
私は、膝から崩れ落ちた。
「……あうぅ」
胸が痛いのは、傷や、苦しみではなくて、ただ、切ないから。
自分自身に聞こえてしまうくらい、鼓動が早くなっていることを自覚する。
触れなくても分かるくらい、体温が高い。きっと私の頬は今、真っ赤になっていることだろう。
「……勇者、さん」
彼のことを口にするだけで、ぐん、と熱が上がった感覚がする。
さっき別れたばかりの私の手には、彼の体温がまだ残っていて。
「っ……」
彼が一瞬、引き留めようとしてくれた。
もう少し一緒にいようと、言おうとしてくれた。
都合のいい勘違いかもしれない。でも、あのときの勇者さんは確かに私の手を取って、言葉に詰まった。
もう少しという我が儘を、彼は我慢してくれた。きっと、私のために。
「……もしも、求められたら」
もしも、彼に泊まっていってくれと言われていたら。
もしも、繋がれたあの手をそのまま引かれていたら。
もしも、あなたと同じ部屋で次の朝を迎えられたら。
「っ……!!」
想像するだけで、頭の奥が沸騰しそう。
「……そう、なったら」
分かってしまった。
あの瞬間、勇者さんがなにを言いたいのか理解したとき、私は私のことを分かってしまった。
私が彼をどう想っているのか、言い訳もできないほどに自覚してしまった。
「拒めない……嫌じゃない……ううん……私も、そうしたい……勇者さんと、いっしょにいたい……」
彼に求められたら、きっと私は拒めない。
手を引かれて引き留められることが、嫌じゃない。
もっと、ずっと、彼の隣にいたい。
「っ……」
それは今まで、誰にも抱いたことがない感情だった。
ほんの少し前まで一緒にいたのに、もうこんなにも寂しくて。
また今度と交わした約束が、今すぐ来てほしいと思ってしまうほどに切なくて。
勇者さんの声を、笑顔を思い出すだけでかぁっと身体が熱くなって。
彼を呼ぶだけで、ここにいないのに胸の奥が満たされる。
「……好き」
言葉にしたその気持ちは、あまりにもあっけなく、するりと私の胸へと落ちた。
それは五千年以上の長い時間を生きて、一度も得たことのない感情。
「勇者さん……好き……好きです……!」
誰かに恋をするということを、私は今日はじめて知った。
胸の奥が、苦しくて、温かくて、切なくて、嬉しくて、寂しくて、愛おしい。
ない交ぜになった感情は体温を急激に上げ、鼓動を乱し、心をおかしくさせる。
もはや言い訳もできないほど、私は勇者さんに恋心を抱いている。そのことに、私はとうとう気がついてしまった。
「でも……私は魔王で、勇者さんは人間で……」
それは、考えるまでもないことだった。
好きという気持ちを通すためには、あまりにも障害が多すぎる。
少し考えるだけで無数に思いつくことができる『問題』のことを考えて、私はうなだれた。
「……無理、ですよね……」
「……魔王様?」
「ぴぇっ!?」
ドアの向こうから聞こえてきた声に、私は思考を中断して飛び上がった。
聞き覚えのある声は、メイドちゃんのもの。
「め、メイドちゃん、どうして……」
「当然、魔王様がお戻りになるまで待機していたからです。……もしもお泊まりするなら、いろいろと言い訳になる理由が必要でしょうから」
つまり私が朝帰りをしたとき、周囲にうまく言うために待ち構えてくれていたということか。
「……お泊まりは、しません」
「ええ、そのようですね。では魔王様、もう夜も遅いので、早めにご就寝ください」
「……メイドちゃん。少し、お部屋に来て……ください」
「……かしこまりました」
ドアを開けて迎え入れると、メイドちゃんはいつも通りに仕事着。
きっと私の休日のために、いろいろと奔走してくれたであろう従者を引き留めてしまうことを、少しだけ申し訳ないと思いながら、私は部屋の扉を閉める。
「……あの、ですね」
「はい、魔王様」
メイドちゃんは、私を急かさない。
伝えたいけどまだ言葉に迷っている私を、彼女は笑顔で待ってくれている。
私は良く出来た従者の優しさに甘えて、少しずつ感情をこぼした。
「お泊まりは……やっぱり、できませんでした。でも……でも、本当は……本当は、したかったなって……思ってて……」
「……はい」
「……勇者さんのことを考えると、胸が苦しいのに、嫌じゃなくて……切ないのに、顔が緩んで……別れたばっかりなのに、もう会いたくなったりして……」
「……はい」
「勇者さんともっといたいって我が儘を考えてしまって……それだけじゃ、いるだけじゃ、なくて……もっと、近づいて……触れて……も、求められたいって、おもってて……」
「……はい」
「……メイドちゃん。私、勇者さんのことが……す、好き、みたい、です……」
「……はい、そのようですね」
好きって言葉を口にするだけで、頭がおかしくなってしまいそうなほど、顔が熱くなってしまう。
メイドちゃんは私のたどたどしい言葉を決して笑わずに、真剣な顔で聞いてくれていた。
「……魔王様」
「な、なんでしょう……」
「おめでとうございます」
「め、めでたいんでしょうか、これ……」
「当然です。……五千年以上、『誰かのために』を望んできた貴女(まおうさま)が、はじめて『自分のために』得た感情なのですから」
「っ……いい、のでしょうか……だって私は魔王で、あの人は、勇者さんで……人間と、魔族で……」
心の中に、たくさんの不安が浮かぶ。
道半ばの私が、贅沢を求めてはいないだろうか。
魔族からの反対も、人類からの反対もきっとあるだろう。
その結果として、彼がひどい目に遭ったり、言われたりしないだろうか。
「魔王様」
「っ……な、なん、でしょう……」
暗く沈みかけた心が、従者の言葉で引き戻される。
メイドちゃんはいつも通り、クールに微笑んだ。
「言うだけなら簡単です。ですがここは、あえて言いましょう。……好きになったのですから、仕方が無いではないですか」
「っ、し、仕方ないって……そんな、簡単に……」
「だって、魔王様は勇者様がお好きでしょう?」
「っ……そ、そう、ですけど……」
「共に過ごしたい、触れあいたい、愛し合いたい……それは本当に簡単です。好きだから一緒にいたいと、簡単で良いのです」
「でも、そのためには……!」
「はい。いろいろと障害はあります、反対も、批判も、きっと避けては通れないでしょう。離反や、暴動もありえます」
「っ……そうです、だから……」
「だから、なんだと言うのです。そんな障害、今までも無数にあったではないですか」
「あ……」
「四千五百年、魔王様にお仕えしてきました。魔界を統一するのも、そのあとで各部族を表面上でも和解させるのも、魔界の生活をよりよくするための試行錯誤も、人界との長い戦も、今も続く戦後処理も……障害がなかった道など、ありませんでした」
メイドちゃんは私の目を真っ直ぐに見て、手を握ってくれる。
まるで、心配しなくても良いと言うように。
「世界をここまで救い続け、民を守り続けて来た魔王様ならば……きっと、ご自分の恋だって守れると、私は信じております」
「……メイドちゃん」
「そして私も……魔王様の従者として、魔王様の望みを叶えるためにお支え致します。例えそれが、世界のように大きな事ではなく……貴女個人の、誰かと共にありたいという、ささやかな望みのためだったとしても」
「……ありがとうございます」
彼女の言うとおりだった。
世界平和なんていう、一個人には過ぎた望みを掲げて、私は叶え続けて来た。完全ではないけれど、それでもと手を伸ばし続けて来た。
そしてそれは、誰かに言われたからじゃない。
私が望み、私が欲しいと思ったから、私は魔王になったのだ。
「……魔界の統治も、人界との和解も、そもそも私の我が儘でした」
誰かに請われたからではなく、誰かを助けたかったから、私は魔王になった。
誰かに命乞いをされたのではなく、誰かに生きていて欲しかったから、私は和解の道を選んだ。
すべて私が望み、私がそうしたいと願ったからだ。
「だったら……もうひとつくらい、我が儘が増えても構いませんよね?」
「……はい。どうぞご存分に、我が儘を言ってください。それを支えたくて、私は魔王様の従者をやっているのですから」
「……ありがとうございます、メイドちゃん」
障害があるなんて、大したことじゃなかった。
生きて、望み、手を伸ばす限り、障害なんていくらでもあるものなのだから。
「……好きだって想うことが、怖かったんですね。だから、理由をつけて逃げようとして……我ながら、未熟者です」
迷うことなどなにもないと分かり、私は堂々と胸を張った。
「私は、勇者さんが好きです」
例え誰になにを言われようと、私は彼に恋をしてしまった。
この気持ちに、嘘はつけない。
「そもそも、まだ付き合ってもいないのに周囲からの反対なんて気にしても仕方ありませんし、私の目標のひとつは魔族と人類の融和です。魔族である私と、人類の勇者さんがそういう関係になるなら、それはむしろ私の目的が達成できるということでもあるのに、それを忌避する理由がありません!」
「その通りです、魔王様。ちなみにそれは、前に私も言いました」
「ええ、本当にメイドちゃんは優秀で……。もしもそれで問題が起きるなら、なんとかします、してみせますとも。だって私は……魔界で最強の、魔王ですから!」
「はい。それでは私も……魔界で最高の従者として、お手伝いを致します。当然、私以外の側近たちもです」
「……お願いしますね、メイドちゃん」
間違いなく味方でいてくれる人の存在に安堵して、私は顔をほころばせた。
不安はあるし、これからは分からない。私が彼を想うように、彼が私に恋をしてくれるかもまだ不明だ。
それでも、私の心はもう決まったから。
この恋心を、大切に、手放さないようにしたい。
見慣れた自分の部屋に入った瞬間、
「っ……」
私は、膝から崩れ落ちた。
「……あうぅ」
胸が痛いのは、傷や、苦しみではなくて、ただ、切ないから。
自分自身に聞こえてしまうくらい、鼓動が早くなっていることを自覚する。
触れなくても分かるくらい、体温が高い。きっと私の頬は今、真っ赤になっていることだろう。
「……勇者、さん」
彼のことを口にするだけで、ぐん、と熱が上がった感覚がする。
さっき別れたばかりの私の手には、彼の体温がまだ残っていて。
「っ……」
彼が一瞬、引き留めようとしてくれた。
もう少し一緒にいようと、言おうとしてくれた。
都合のいい勘違いかもしれない。でも、あのときの勇者さんは確かに私の手を取って、言葉に詰まった。
もう少しという我が儘を、彼は我慢してくれた。きっと、私のために。
「……もしも、求められたら」
もしも、彼に泊まっていってくれと言われていたら。
もしも、繋がれたあの手をそのまま引かれていたら。
もしも、あなたと同じ部屋で次の朝を迎えられたら。
「っ……!!」
想像するだけで、頭の奥が沸騰しそう。
「……そう、なったら」
分かってしまった。
あの瞬間、勇者さんがなにを言いたいのか理解したとき、私は私のことを分かってしまった。
私が彼をどう想っているのか、言い訳もできないほどに自覚してしまった。
「拒めない……嫌じゃない……ううん……私も、そうしたい……勇者さんと、いっしょにいたい……」
彼に求められたら、きっと私は拒めない。
手を引かれて引き留められることが、嫌じゃない。
もっと、ずっと、彼の隣にいたい。
「っ……」
それは今まで、誰にも抱いたことがない感情だった。
ほんの少し前まで一緒にいたのに、もうこんなにも寂しくて。
また今度と交わした約束が、今すぐ来てほしいと思ってしまうほどに切なくて。
勇者さんの声を、笑顔を思い出すだけでかぁっと身体が熱くなって。
彼を呼ぶだけで、ここにいないのに胸の奥が満たされる。
「……好き」
言葉にしたその気持ちは、あまりにもあっけなく、するりと私の胸へと落ちた。
それは五千年以上の長い時間を生きて、一度も得たことのない感情。
「勇者さん……好き……好きです……!」
誰かに恋をするということを、私は今日はじめて知った。
胸の奥が、苦しくて、温かくて、切なくて、嬉しくて、寂しくて、愛おしい。
ない交ぜになった感情は体温を急激に上げ、鼓動を乱し、心をおかしくさせる。
もはや言い訳もできないほど、私は勇者さんに恋心を抱いている。そのことに、私はとうとう気がついてしまった。
「でも……私は魔王で、勇者さんは人間で……」
それは、考えるまでもないことだった。
好きという気持ちを通すためには、あまりにも障害が多すぎる。
少し考えるだけで無数に思いつくことができる『問題』のことを考えて、私はうなだれた。
「……無理、ですよね……」
「……魔王様?」
「ぴぇっ!?」
ドアの向こうから聞こえてきた声に、私は思考を中断して飛び上がった。
聞き覚えのある声は、メイドちゃんのもの。
「め、メイドちゃん、どうして……」
「当然、魔王様がお戻りになるまで待機していたからです。……もしもお泊まりするなら、いろいろと言い訳になる理由が必要でしょうから」
つまり私が朝帰りをしたとき、周囲にうまく言うために待ち構えてくれていたということか。
「……お泊まりは、しません」
「ええ、そのようですね。では魔王様、もう夜も遅いので、早めにご就寝ください」
「……メイドちゃん。少し、お部屋に来て……ください」
「……かしこまりました」
ドアを開けて迎え入れると、メイドちゃんはいつも通りに仕事着。
きっと私の休日のために、いろいろと奔走してくれたであろう従者を引き留めてしまうことを、少しだけ申し訳ないと思いながら、私は部屋の扉を閉める。
「……あの、ですね」
「はい、魔王様」
メイドちゃんは、私を急かさない。
伝えたいけどまだ言葉に迷っている私を、彼女は笑顔で待ってくれている。
私は良く出来た従者の優しさに甘えて、少しずつ感情をこぼした。
「お泊まりは……やっぱり、できませんでした。でも……でも、本当は……本当は、したかったなって……思ってて……」
「……はい」
「……勇者さんのことを考えると、胸が苦しいのに、嫌じゃなくて……切ないのに、顔が緩んで……別れたばっかりなのに、もう会いたくなったりして……」
「……はい」
「勇者さんともっといたいって我が儘を考えてしまって……それだけじゃ、いるだけじゃ、なくて……もっと、近づいて……触れて……も、求められたいって、おもってて……」
「……はい」
「……メイドちゃん。私、勇者さんのことが……す、好き、みたい、です……」
「……はい、そのようですね」
好きって言葉を口にするだけで、頭がおかしくなってしまいそうなほど、顔が熱くなってしまう。
メイドちゃんは私のたどたどしい言葉を決して笑わずに、真剣な顔で聞いてくれていた。
「……魔王様」
「な、なんでしょう……」
「おめでとうございます」
「め、めでたいんでしょうか、これ……」
「当然です。……五千年以上、『誰かのために』を望んできた貴女(まおうさま)が、はじめて『自分のために』得た感情なのですから」
「っ……いい、のでしょうか……だって私は魔王で、あの人は、勇者さんで……人間と、魔族で……」
心の中に、たくさんの不安が浮かぶ。
道半ばの私が、贅沢を求めてはいないだろうか。
魔族からの反対も、人類からの反対もきっとあるだろう。
その結果として、彼がひどい目に遭ったり、言われたりしないだろうか。
「魔王様」
「っ……な、なん、でしょう……」
暗く沈みかけた心が、従者の言葉で引き戻される。
メイドちゃんはいつも通り、クールに微笑んだ。
「言うだけなら簡単です。ですがここは、あえて言いましょう。……好きになったのですから、仕方が無いではないですか」
「っ、し、仕方ないって……そんな、簡単に……」
「だって、魔王様は勇者様がお好きでしょう?」
「っ……そ、そう、ですけど……」
「共に過ごしたい、触れあいたい、愛し合いたい……それは本当に簡単です。好きだから一緒にいたいと、簡単で良いのです」
「でも、そのためには……!」
「はい。いろいろと障害はあります、反対も、批判も、きっと避けては通れないでしょう。離反や、暴動もありえます」
「っ……そうです、だから……」
「だから、なんだと言うのです。そんな障害、今までも無数にあったではないですか」
「あ……」
「四千五百年、魔王様にお仕えしてきました。魔界を統一するのも、そのあとで各部族を表面上でも和解させるのも、魔界の生活をよりよくするための試行錯誤も、人界との長い戦も、今も続く戦後処理も……障害がなかった道など、ありませんでした」
メイドちゃんは私の目を真っ直ぐに見て、手を握ってくれる。
まるで、心配しなくても良いと言うように。
「世界をここまで救い続け、民を守り続けて来た魔王様ならば……きっと、ご自分の恋だって守れると、私は信じております」
「……メイドちゃん」
「そして私も……魔王様の従者として、魔王様の望みを叶えるためにお支え致します。例えそれが、世界のように大きな事ではなく……貴女個人の、誰かと共にありたいという、ささやかな望みのためだったとしても」
「……ありがとうございます」
彼女の言うとおりだった。
世界平和なんていう、一個人には過ぎた望みを掲げて、私は叶え続けて来た。完全ではないけれど、それでもと手を伸ばし続けて来た。
そしてそれは、誰かに言われたからじゃない。
私が望み、私が欲しいと思ったから、私は魔王になったのだ。
「……魔界の統治も、人界との和解も、そもそも私の我が儘でした」
誰かに請われたからではなく、誰かを助けたかったから、私は魔王になった。
誰かに命乞いをされたのではなく、誰かに生きていて欲しかったから、私は和解の道を選んだ。
すべて私が望み、私がそうしたいと願ったからだ。
「だったら……もうひとつくらい、我が儘が増えても構いませんよね?」
「……はい。どうぞご存分に、我が儘を言ってください。それを支えたくて、私は魔王様の従者をやっているのですから」
「……ありがとうございます、メイドちゃん」
障害があるなんて、大したことじゃなかった。
生きて、望み、手を伸ばす限り、障害なんていくらでもあるものなのだから。
「……好きだって想うことが、怖かったんですね。だから、理由をつけて逃げようとして……我ながら、未熟者です」
迷うことなどなにもないと分かり、私は堂々と胸を張った。
「私は、勇者さんが好きです」
例え誰になにを言われようと、私は彼に恋をしてしまった。
この気持ちに、嘘はつけない。
「そもそも、まだ付き合ってもいないのに周囲からの反対なんて気にしても仕方ありませんし、私の目標のひとつは魔族と人類の融和です。魔族である私と、人類の勇者さんがそういう関係になるなら、それはむしろ私の目的が達成できるということでもあるのに、それを忌避する理由がありません!」
「その通りです、魔王様。ちなみにそれは、前に私も言いました」
「ええ、本当にメイドちゃんは優秀で……。もしもそれで問題が起きるなら、なんとかします、してみせますとも。だって私は……魔界で最強の、魔王ですから!」
「はい。それでは私も……魔界で最高の従者として、お手伝いを致します。当然、私以外の側近たちもです」
「……お願いしますね、メイドちゃん」
間違いなく味方でいてくれる人の存在に安堵して、私は顔をほころばせた。
不安はあるし、これからは分からない。私が彼を想うように、彼が私に恋をしてくれるかもまだ不明だ。
それでも、私の心はもう決まったから。
この恋心を、大切に、手放さないようにしたい。