「ちょっと、かの子さん見すぎ見すぎー」
ため息交じりのたまきちゃんの声に、はっと我に返る。
あわてて視線を外し、たまきちゃんのほうを向き直ったけれど、手遅れなのはわかっていた。だって、完全にガン見だった。およそ十秒ほど。目の前にいるたまきちゃんの存在すら忘れていた。
――あれから一週間。ずっと頭から離れなかった。
佐々原くんが、一瞬だけこちらへ向けた視線。考えれば考えるほど、やっぱりあれは私のためだったのではないか、なんて思えてしまって。
たまきちゃんはなんとも微妙な顔をして、窓際に集まる男子たちのほうへ目をやっている。その中に、さっきまで私がガン見していた彼がいる。友達といっしょに、めずらしく声を上げて笑っている。子どもっぽく、楽しそうに。
……いや、あんなのずるい。見とれるに決まっている。普段はクールで近寄りがたい彼の、全開の笑顔なんて。
思い出すだけでときめきで胸が苦しくなってきて、落ち着くためにお茶を飲もうとしたとき、
「――佐々原くんは、やめといたほうがいいと思うけどなあ」
ぼそりと、たまきちゃんが気遣わしげに呟いた。
もう何度目になるかわからない台詞。いつもながら、私はなんと答えればいいのかわからなくて、ただ曖昧に笑っておく。
だって、何度そう言われたところで、私は佐々原くんを目で追うのをやめられない。あの日からずっと。
……考えすぎ、かもしれないけれど。
そもそも目が合ったと思ったのだって、ほんの一瞬だったし。ただの、気のせいだったのかもしれない。
だって、相手は〝あの〟佐々原くんなのだ。
「片瀬さんたちへの〝あれ〟がよっぽどかの子の心に響いたのはわかったけど。だからってなにも、見えてる地雷に突っ込んでいくことないじゃん」
「……地雷って」
あいかわらず遠慮のないたまきちゃんの言葉に、私はまた苦笑する。
――そう、地雷。
佐々原くんをこう評するのは、べつにたまきちゃんだけではない。まだ高校生活が始まって一ヶ月ほどしか経っていないけれど、少なくともうちのクラスの女子の中では、それはすでに共通認識として定着している。
――佐々原くんは、安易に近寄ってはいけない、地雷男子なのだと。
最初にそんな声がささやかれはじめたのは、入学して一週間ほど経った頃。
『ねえねえ、佐々原くんだっけ。なにしてるのー?』
自分の席でスマホをいじっていた佐々原くんに、そんな風に声をかけたクラスメイトがいた。鈴鹿さんという、ものすごくかわいい女の子だった。
私もそれを、隣の席で聞いていた。なんとなく気になったから、次の授業の準備をしていた手を止めて、聞き耳を立てていた。
佐々原くんが女子となにか言葉を交わすのを、それまで一度も聞いたことがなかったから。
きっと、話しかけたいと思っていた女子は鈴鹿さん以外にもたくさんいた。私もそのひとりだった。隣の席だったし、なにか話してみたいな、とはずっと思っていた。けれどまだ一度も、話しかけたことはなかった。どうしても勇気が出なかった。
佐々原くんはかっこよかった。ものすごく。
整った端正な顔立ちに、背が高くてスタイルも良くて、入学当初からひときわ目立っていた。クラスの女子のあいだでも早々に、かっこいい、彼女いるのかな、なんて話題になっていたぐらい。
だけどその疑問を佐々原くんに直接訊きにいった者は、それまで誰もいなかったはずだ。たぶん誰も勇気が出なかったのだ。私と同じで。それこそ鈴鹿さんぐらいかわいくて、男子にダントツの人気があるような、そんな女の子でないと。
『スマホを、見てる』
そんな圧倒的美少女である鈴鹿さんの、最上級に甘くかわいらしい声かけに対しての佐々原くんの返答は、それだった。
愛想のかけらもない、芯から冷たい声だった。隣で聞いていただけなのに、私の心臓まで嫌な音を立てたほど。
予想外の反応だったのか、鈴鹿さんも一瞬固まっていた。きっとこれまで、鈴鹿さんにこんな塩対応をした男子はいなかったのだろう。
だけどさすが、かわいい女の子はハートが強かった。すぐに、鈴鹿さんは気を取り直したように笑って、
『いやいや、そうじゃなくてー。なに見てるの、ってことだよー。あっ、わかった、もしかして彼女にラインとかー?』
明るくふざけたように、佐々原くんのスマホを覗のぞき込もうとした、そのとき。
佐々原くんが、舌打ちをした。私にも聞こえたぐらい、はっきりと。
『悪いけど』
続けて吐き捨てた佐々原くんの低い声に、完全に空気が凍ったのを覚えている。
『俺、きみと仲良くする気はないから。全然』
不機嫌さを隠しもしない声でそれだけ言うと、佐々原くんはイライラした足取りで教室を出ていった。
あとに残された鈴鹿さんは、しばしあっけにとられたように立ち尽くしていた。
やがて、心配した友達に声をかけられた彼女が泣きだしてしまい、教室は一時騒然となったのだ。
――それ以降、佐々原くんは完全に、〝近寄らないほうがいい人〟と認識され、遠巻きにされる存在となった。
そんな出来事はあったものの、佐々原くんはクラスで孤立しているというわけではなかった。素っ気ないのはあくまで女子に対してだけで、男子とはなにも問題なく交流していたから。クラスの中心にいるようなお調子者の男子たちと、教室で声を上げて笑っていたりもする。男子に対してはごくふつうの、ノリの良い男の子だった。
だからこそ、よけいに女子に対する冷たさの悪印象が際だった。さらに加えて、先日の片瀬さんたちとの一件が決定打になった。
――鬼ラインをするタイプの、粘着質でストーカー気質な地雷男子。
身に覚えがあったんじゃないの、という滝本さんの推察をきっかけに、そんな烙印らくいんまで押され、佐々原くんの評価は地に落ちることとなったのだ。
だけど。
「みんなが言ってるのは、ただの勝手な想像だし……」
片瀬さんに突っかかったことと、普段からよくスマホを触っていることを、ただ無理矢理つなげただけの。そもそも、もし本当に佐々原くんが鬼ラインをするタイプの人だったとして。
――それの、なにが悪いのだろう。
「まあ、たしかに想像だけど。でもさ、佐々原くんがいっつもスマホいじってるのは事実じゃん。毎回誰かにメッセージ送ってるっぽいのも」
「うん、まあ……」
「そんな頻繁に連絡とる相手って、やっぱ彼女じゃないの? 他校に彼女がいるんだと思うよ、たぶん」
「そう、なのかな……」
ちらっとまた窓際のほうへ目をやる。佐々原くんは友達といっしょに、やっぱり楽しそうに笑っている。子どもっぽい、たまらなくまぶしい笑顔で。
「あ、それよりさ」
私がまたその笑顔に見とれかけていたとき、たまきちゃんが思い出したように声を上げた。
ポケットから赤くて薄いスマホを取り出す。そうして目の前で操作を始めながら、
「クラスのグループラインができたんだって。かの子も招待するねー」
「え……」
グループライン。
たまきちゃんの口にしたその単語に、どくん、と心臓が嫌な跳ね方をした。
返す言葉に迷っているうちに、ポケットの中でスマホが震えた。見てみると、画面に通知が表示されていた。
【吉岡たまきがあなたを、グループ『1年B組』に招待しました】
嫌だな、と一瞬思ってしまう。
だけど拒否することなんてできないから、強張ばる指先で『参加』のボタンを押した。
「……ありがとう、たまきちゃん」
開いてみれば、すでに半数以上のクラスメイトが参加していた。私の招待はわりと遅いほうだったらしい。ずらりと並んだ名前を眺めているうちに、なんだか息が苦しくなってくる。
ほとんどが、話したこともない人たちだ。この中で自信をもって友達と呼べる人なんて、それこそたまきちゃんぐらい。
そのたまきちゃんだって、仲良くなったのはほんの数日前だった。出席番号が前後だったから、身体測定のときの待ち時間に運良く話す機会があって、しかも本当に運良く波長が合って、私はこの高校ではじめて友達を作ることができた。
だけど正直まだ、心底打ち解けているとはいえなかった。面と向かって会話をするのはいいけれど、ラインを送るのは今も緊張するし、気を遣う。いや、べつにそれはたまきちゃんだけでなく、私は誰に対してもそうだけど。
私は、ラインが怖かった。あの日からずっと。
「……あの、たまきちゃん」
「ん?」
「グループラインで誰かが発言したら、反応したほうがいいのかな」
「え、そうだね。自分と関係ある内容なら、したほうがいいんじゃない?」
きょとんとした顔で、首を傾げながらたまきちゃんが答える。
「関係のある内容……」と口の中で繰り返して、私が考え込んでいると、
「え、なにかの子、もしかしてグループラインはじめて?」
「あ、う、うん……」
「大丈夫だよ、そんな重たく考えなくても。反応したいなって思うメッセージだったら反応すればいいんだよ。たかがラインなんだから」
あっけらかんと笑ってたまきちゃんが私の肩を叩たたく。
「そう、だね」と私も笑顔を返しながら、たまきちゃんの口にした言葉の一部分が、ずきりと傷に沁しみた。
――重たい。
重たかったのか、今の質問自体が。こんなこと、ふつうは考えないんだ、きっと。
……失敗した。
途方に暮れてうつむいたら、またスマホの画面が目に入って、
「……あっ」
「ん、なに?」
「あ、いや、なんでも」
飛び込んできた名前にうっかり声が漏れて、あわてて首を振った。
――佐々原くんも、いた。
ひらがなで下の名前だけとか、あだ名とか、誰なのかよくわからないアカウント名の人もいるけれど、佐々原くんはしっかり『佐々原宗佑』というフルネームで登録してくれていたから。
佐々原くんもグループラインには参加するんだな、なんてちょっと意外に思う。まあ、クラスの連絡事項はここから届くのだろうし、参加しないと困るからだろうけれど。
考えながら、その名前とアイコンをなんとはなしに眺める。そうしているうちに、なぜだか少し落ち着かない気分になってきて、そのことに自分で戸惑った。
教室で何度か見かけた、スマホをいじる佐々原くんの姿を思い出す。クラスの女子が口にする、佐々原くんについての噂といっしょに。
――佐々原くんは、本当に。
誰かにずっと、ラインを送っているのだろうか。
ため息交じりのたまきちゃんの声に、はっと我に返る。
あわてて視線を外し、たまきちゃんのほうを向き直ったけれど、手遅れなのはわかっていた。だって、完全にガン見だった。およそ十秒ほど。目の前にいるたまきちゃんの存在すら忘れていた。
――あれから一週間。ずっと頭から離れなかった。
佐々原くんが、一瞬だけこちらへ向けた視線。考えれば考えるほど、やっぱりあれは私のためだったのではないか、なんて思えてしまって。
たまきちゃんはなんとも微妙な顔をして、窓際に集まる男子たちのほうへ目をやっている。その中に、さっきまで私がガン見していた彼がいる。友達といっしょに、めずらしく声を上げて笑っている。子どもっぽく、楽しそうに。
……いや、あんなのずるい。見とれるに決まっている。普段はクールで近寄りがたい彼の、全開の笑顔なんて。
思い出すだけでときめきで胸が苦しくなってきて、落ち着くためにお茶を飲もうとしたとき、
「――佐々原くんは、やめといたほうがいいと思うけどなあ」
ぼそりと、たまきちゃんが気遣わしげに呟いた。
もう何度目になるかわからない台詞。いつもながら、私はなんと答えればいいのかわからなくて、ただ曖昧に笑っておく。
だって、何度そう言われたところで、私は佐々原くんを目で追うのをやめられない。あの日からずっと。
……考えすぎ、かもしれないけれど。
そもそも目が合ったと思ったのだって、ほんの一瞬だったし。ただの、気のせいだったのかもしれない。
だって、相手は〝あの〟佐々原くんなのだ。
「片瀬さんたちへの〝あれ〟がよっぽどかの子の心に響いたのはわかったけど。だからってなにも、見えてる地雷に突っ込んでいくことないじゃん」
「……地雷って」
あいかわらず遠慮のないたまきちゃんの言葉に、私はまた苦笑する。
――そう、地雷。
佐々原くんをこう評するのは、べつにたまきちゃんだけではない。まだ高校生活が始まって一ヶ月ほどしか経っていないけれど、少なくともうちのクラスの女子の中では、それはすでに共通認識として定着している。
――佐々原くんは、安易に近寄ってはいけない、地雷男子なのだと。
最初にそんな声がささやかれはじめたのは、入学して一週間ほど経った頃。
『ねえねえ、佐々原くんだっけ。なにしてるのー?』
自分の席でスマホをいじっていた佐々原くんに、そんな風に声をかけたクラスメイトがいた。鈴鹿さんという、ものすごくかわいい女の子だった。
私もそれを、隣の席で聞いていた。なんとなく気になったから、次の授業の準備をしていた手を止めて、聞き耳を立てていた。
佐々原くんが女子となにか言葉を交わすのを、それまで一度も聞いたことがなかったから。
きっと、話しかけたいと思っていた女子は鈴鹿さん以外にもたくさんいた。私もそのひとりだった。隣の席だったし、なにか話してみたいな、とはずっと思っていた。けれどまだ一度も、話しかけたことはなかった。どうしても勇気が出なかった。
佐々原くんはかっこよかった。ものすごく。
整った端正な顔立ちに、背が高くてスタイルも良くて、入学当初からひときわ目立っていた。クラスの女子のあいだでも早々に、かっこいい、彼女いるのかな、なんて話題になっていたぐらい。
だけどその疑問を佐々原くんに直接訊きにいった者は、それまで誰もいなかったはずだ。たぶん誰も勇気が出なかったのだ。私と同じで。それこそ鈴鹿さんぐらいかわいくて、男子にダントツの人気があるような、そんな女の子でないと。
『スマホを、見てる』
そんな圧倒的美少女である鈴鹿さんの、最上級に甘くかわいらしい声かけに対しての佐々原くんの返答は、それだった。
愛想のかけらもない、芯から冷たい声だった。隣で聞いていただけなのに、私の心臓まで嫌な音を立てたほど。
予想外の反応だったのか、鈴鹿さんも一瞬固まっていた。きっとこれまで、鈴鹿さんにこんな塩対応をした男子はいなかったのだろう。
だけどさすが、かわいい女の子はハートが強かった。すぐに、鈴鹿さんは気を取り直したように笑って、
『いやいや、そうじゃなくてー。なに見てるの、ってことだよー。あっ、わかった、もしかして彼女にラインとかー?』
明るくふざけたように、佐々原くんのスマホを覗のぞき込もうとした、そのとき。
佐々原くんが、舌打ちをした。私にも聞こえたぐらい、はっきりと。
『悪いけど』
続けて吐き捨てた佐々原くんの低い声に、完全に空気が凍ったのを覚えている。
『俺、きみと仲良くする気はないから。全然』
不機嫌さを隠しもしない声でそれだけ言うと、佐々原くんはイライラした足取りで教室を出ていった。
あとに残された鈴鹿さんは、しばしあっけにとられたように立ち尽くしていた。
やがて、心配した友達に声をかけられた彼女が泣きだしてしまい、教室は一時騒然となったのだ。
――それ以降、佐々原くんは完全に、〝近寄らないほうがいい人〟と認識され、遠巻きにされる存在となった。
そんな出来事はあったものの、佐々原くんはクラスで孤立しているというわけではなかった。素っ気ないのはあくまで女子に対してだけで、男子とはなにも問題なく交流していたから。クラスの中心にいるようなお調子者の男子たちと、教室で声を上げて笑っていたりもする。男子に対してはごくふつうの、ノリの良い男の子だった。
だからこそ、よけいに女子に対する冷たさの悪印象が際だった。さらに加えて、先日の片瀬さんたちとの一件が決定打になった。
――鬼ラインをするタイプの、粘着質でストーカー気質な地雷男子。
身に覚えがあったんじゃないの、という滝本さんの推察をきっかけに、そんな烙印らくいんまで押され、佐々原くんの評価は地に落ちることとなったのだ。
だけど。
「みんなが言ってるのは、ただの勝手な想像だし……」
片瀬さんに突っかかったことと、普段からよくスマホを触っていることを、ただ無理矢理つなげただけの。そもそも、もし本当に佐々原くんが鬼ラインをするタイプの人だったとして。
――それの、なにが悪いのだろう。
「まあ、たしかに想像だけど。でもさ、佐々原くんがいっつもスマホいじってるのは事実じゃん。毎回誰かにメッセージ送ってるっぽいのも」
「うん、まあ……」
「そんな頻繁に連絡とる相手って、やっぱ彼女じゃないの? 他校に彼女がいるんだと思うよ、たぶん」
「そう、なのかな……」
ちらっとまた窓際のほうへ目をやる。佐々原くんは友達といっしょに、やっぱり楽しそうに笑っている。子どもっぽい、たまらなくまぶしい笑顔で。
「あ、それよりさ」
私がまたその笑顔に見とれかけていたとき、たまきちゃんが思い出したように声を上げた。
ポケットから赤くて薄いスマホを取り出す。そうして目の前で操作を始めながら、
「クラスのグループラインができたんだって。かの子も招待するねー」
「え……」
グループライン。
たまきちゃんの口にしたその単語に、どくん、と心臓が嫌な跳ね方をした。
返す言葉に迷っているうちに、ポケットの中でスマホが震えた。見てみると、画面に通知が表示されていた。
【吉岡たまきがあなたを、グループ『1年B組』に招待しました】
嫌だな、と一瞬思ってしまう。
だけど拒否することなんてできないから、強張ばる指先で『参加』のボタンを押した。
「……ありがとう、たまきちゃん」
開いてみれば、すでに半数以上のクラスメイトが参加していた。私の招待はわりと遅いほうだったらしい。ずらりと並んだ名前を眺めているうちに、なんだか息が苦しくなってくる。
ほとんどが、話したこともない人たちだ。この中で自信をもって友達と呼べる人なんて、それこそたまきちゃんぐらい。
そのたまきちゃんだって、仲良くなったのはほんの数日前だった。出席番号が前後だったから、身体測定のときの待ち時間に運良く話す機会があって、しかも本当に運良く波長が合って、私はこの高校ではじめて友達を作ることができた。
だけど正直まだ、心底打ち解けているとはいえなかった。面と向かって会話をするのはいいけれど、ラインを送るのは今も緊張するし、気を遣う。いや、べつにそれはたまきちゃんだけでなく、私は誰に対してもそうだけど。
私は、ラインが怖かった。あの日からずっと。
「……あの、たまきちゃん」
「ん?」
「グループラインで誰かが発言したら、反応したほうがいいのかな」
「え、そうだね。自分と関係ある内容なら、したほうがいいんじゃない?」
きょとんとした顔で、首を傾げながらたまきちゃんが答える。
「関係のある内容……」と口の中で繰り返して、私が考え込んでいると、
「え、なにかの子、もしかしてグループラインはじめて?」
「あ、う、うん……」
「大丈夫だよ、そんな重たく考えなくても。反応したいなって思うメッセージだったら反応すればいいんだよ。たかがラインなんだから」
あっけらかんと笑ってたまきちゃんが私の肩を叩たたく。
「そう、だね」と私も笑顔を返しながら、たまきちゃんの口にした言葉の一部分が、ずきりと傷に沁しみた。
――重たい。
重たかったのか、今の質問自体が。こんなこと、ふつうは考えないんだ、きっと。
……失敗した。
途方に暮れてうつむいたら、またスマホの画面が目に入って、
「……あっ」
「ん、なに?」
「あ、いや、なんでも」
飛び込んできた名前にうっかり声が漏れて、あわてて首を振った。
――佐々原くんも、いた。
ひらがなで下の名前だけとか、あだ名とか、誰なのかよくわからないアカウント名の人もいるけれど、佐々原くんはしっかり『佐々原宗佑』というフルネームで登録してくれていたから。
佐々原くんもグループラインには参加するんだな、なんてちょっと意外に思う。まあ、クラスの連絡事項はここから届くのだろうし、参加しないと困るからだろうけれど。
考えながら、その名前とアイコンをなんとはなしに眺める。そうしているうちに、なぜだか少し落ち着かない気分になってきて、そのことに自分で戸惑った。
教室で何度か見かけた、スマホをいじる佐々原くんの姿を思い出す。クラスの女子が口にする、佐々原くんについての噂といっしょに。
――佐々原くんは、本当に。
誰かにずっと、ラインを送っているのだろうか。