そして大広間まで来ると話し声が聞こえてきた。
お父様とお母様が話をしているみたいだ。
もしかしたら無礼だと怒っているのかもしれない。
私は、恐る恐る覗いてみる。すると……。
「母さん……今の聞いたか?
父親でも許さないって……あの天使みたいに可愛い葵が私に歯向かって来たんだぞ?
随分とかっこよく育ったじゃないか。
いや、それでもあの可憐さは、変わらない。さすが私の息子だ」
「えぇ……聞きましたとも。
上紗さんも勇ましくてカッコ良かったですが、やはり葵ちゃんの可愛さは、絶品ね。
あなたも素敵でしたわ。まるで極道映画を観ているようで……」
「だろ?だろ?血の海だなんて今時、社会問題になるし、そもそも私の可愛い葵にさせる訳がないだろ。
もう少し怖さを見せて葵の反応を楽しみたかったが、そろそろ許してやらないとな。
言ったらどうなるかな?
目をうるうるさせて喜んでくれるかな?
だとしたら見てみたいものだ。絶対に可愛いぞ」
「まぁ……あなたったら」
楽しそうに会話をしていた。って……おい。
これは、全部芝居だったの!?
私は、驚きとがく然とした。
反対しているのだと思ったら、ただ鬼龍院さんの反応を見て楽しみたかっただけみたいだ。なんて……傍迷惑な。
私は、呆れるやら怒りが込み上げてくるやらで、唖然としたままだった。
すると鬼龍院さんが心配そうにこちらに近づいてきた。
私は、よろよろしながら鬼龍院さんのところに向かった。
「上紗さん大丈夫ですか!?
もしかしたら……また何かあったの?」
「ううん……大丈夫です。
何か……上手くやって行けそうな気がしました」
「えっ……?」
何の事かさっぱり分からない様子の鬼龍院さんだったが私は、確信した。
お父様もお母様同様に息子である鬼龍院さんを溺愛していた。
つまり彼を傷つけない限りは、息子に対してとことん甘く平和にやっていけるだろうと……。
その後。私達は、無事に結婚することが出来た。
挙式に新婚旅行など色々あったがお互いに支え合える夫婦になれたら嬉しい。
だが、そんな私達にまたトラブルがあるなんてこの時は、誰も思わなかった。
それは、4月のことだった。桜が咲き新学期。
ここの学園のシステムで2、3年は生徒と担任も同じなため坂下君達は、変わらずに私の教え子だ。
私も3年の1組の担任としてやることになったのだが、新しい教師も赴任してきた。だがその1人が……。
「海外の学校から赴任してきました。
英語を担当させてもらいます。
黒江真一と言います」
「く、黒江お兄ちゃん!?」