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「ハーイ! オッケーでぇーっす!」
出入り口からいきなり三人の男子生徒が顔を出して、体育館倉庫の中に入ってくる。
スマホを構えているやつもいる。
同じクラスのユウヤとアユムに、別のクラスの……たしかヒロキとかいうやつだ。
俺は一瞬で現実に引き戻された。
なんだ、やっぱりそうだったのか。
ドッキリかよ。
だよな……。
分かってたことだし、負け惜しみでも何でもなく、逆に、心の中で俺は何度もうなずいてしまっていた。
この方がよっぽど納得がいく。
全部夢だったんじゃんか。
そりゃそうだよ。
俺にそんな幸運が舞い降りるはずがないんだ。
口の中に残っていたクッキーのかけらが、奥歯に挟まれてジャリッと砕けた。
スマホを構えたまま、ユウヤがゲラゲラ笑い出す。
「非モテ男子がニセの手紙で呼び出されて何期待しちゃってるんですかあ」
アユムも手をたたいて喜んでいる。
「モロ引っかかってるし」
「生配信だからな。オマエのマヌケ面が全世界に広まるぜ」と、ヒロキが俺の顔をのぞき込むようにしながらあざける。
さっきまでその生配信を望んでいた自分がめちゃくちゃ恥ずかしい。
アユムが福本さんのクッキーを指さした。
「しっかしよ、カンナもこんな小道具まで作ってきて、チョー熱入ってんじゃん」
「ホント、悪い女だよな」と、ヒロキが一枚口に放り込む。「なんだよ、結構うまいじゃんか」
「オイオイ、まさか、本命なんじゃねえの」とユウヤがゲラゲラ笑いながらこちらにスマホを向けた。
福本さんはうつむいたまま黙り込んでしまった。
どうも様子が変だ。
共犯にしては一緒に盛り上がるような雰囲気でもないようだ。
俺はなんとなく彼女の顔が映らないように、ユウヤとの間に体をねじ込むようにさりげなく立つ位置を変えた。
この期に及んで彼女をかばうべきなんだろうか。
どこまでも俺はチョロい非モテ男子なんだろうか。
ただ、福本さんはこいつらと一緒になって俺を馬鹿にしているようには思えなかった。
さっきまでの会話だって、演技だとは思えない。
いや、俺がだまされやすいだけなのか。
いやいや、そうじゃない。
俺がどうするべきかを決めなくちゃいけないんだ。
俺が彼女を守るのかどうか。
それを決めるべきなんだ。
ただ、俺はやっぱり優柔不断な非モテ男子だ。
結論が出ないまま無駄にカメラだけが回っていた。
場の空気がよどんでいく。
「というわけで、ドッキリ大成功でした」
ユウヤが自分の方にスマホを向けてシメのコメントをしようとしたところに、ヒロキがかぶせた。
「おっと、ユウヤ、まだカメラを止めるんじゃねえぞ。ここからがいいところだろうが」
そう言うと、いきなりヒロキが俺と福本さんの鞄を取り上げた。
「ちょっと、何よ」と抵抗しようとする福本さんを、アユムが突き飛ばす。
「おめえもこのマヌケ野郎と一緒に閉じ込められてろよ」
「どういうことよ」
「おまえさ、弓崎先輩に恥かかせたろ」とアユムが福本さんをにらみつける。「マヌケ野郎と一緒に反省しろや」
三人は体育館倉庫を出て引き戸を閉めると、外から鍵をかけてしまった。
「鞄は外に置いとくからな。けっ、ザマァ!」
扉の向こうに高笑いを残して、やつらは去っていったようだった。