「どうしたの、彩音」


 鍵がない。
 それを知って焦っていたら。

 太鳳くんがその様子に気付いてくれた。


「家の鍵を忘れてしまって」


 お母さんとお父さんとお兄ちゃんの中で一番早く帰ってくるのはお母さん。

 だけど。
 そのお母さんも最低一時間は帰ってこない。


 制服が濡れてしまっているから少しでも早く家の中に入りたかったけれど。


 仕方がない。
 このまま家の前で待つしかない。


「彩音、このままだと身体が冷えてしまう。
 入って」


 そう思っていると。
 太鳳くんが晴海家に入れてくれようとしている。


「ありがとう、太鳳くん。
 だけど、家に入れてもらうなんて悪いから」


 そう思い。
 太鳳くんにそう言うと。


「なんでそんなにも遠慮するの。
 俺に遠慮なんてしてほしくない」


 太鳳くんはやさしくそう言ってくれた。


 太鳳くんの気持ち。
 すごく嬉しくてありがたい。

 せっかく太鳳くんがそう言ってくれている。

 だから。


「ありがとう、太鳳くん。
 それじゃあ、お言葉に甘えておじゃまします」


 太鳳くんの親切に甘えさせてもらうことにした。