* * *


 家の前に着き。


「太鳳くん、本当にありがとう。
 すごく助かったよ」


 太鳳くんにもう一度お礼を言った。


「ほんとにいいよ、そんなこと。
 それよりも六月の下旬とはいえ、
 雨に濡れたままだと冷えるから
 風邪とか気を付けて」


 やさしい声のトーンでそう言ってくれる太鳳くん。


 太鳳くんは優しくて気遣いがある。
 そんな太鳳くんの言葉がやさしく染み渡ってくる。

 そのことが、なんだか嬉しく思う。


「ありがとう」


 太鳳くんにそう言ってバッグの中から家の鍵を取り出そうと……。


 って。

 あれ?

 おかしいな。
 そんなはずは……。


 そう思い。
 もう一度、バッグの中を確かめる。


 けれど。
 やっぱり、ない。
 家の鍵。


 そういえば。
 自分の部屋の机に置いたような。

 そのまま忘れて家を出てしまったんだ。