「……ありがとう。できれば冷蔵庫に入れてもらっていてもいい?」

 相手が魔王とはいえ、変に突っかかるのはやめる。突っかかる気力がないのが本当のところだ。

 それを凰理も理解しているのか、余計なことは言わず紫音の指示に従う。

「病院に行くか?」

 紫音は力なく首を横に振った。

「平、気。寝てれば治る」

 あとひたすら横になってなんとかするだけだ。

「無理してもいいことはないぞ」

「してない」

 すげなく返す紫音に凰理は軽くため息をついた。

「利都も心配していた。詩音も」

 凰理の最後の言葉に紫音は目を見張って硬直した。なぜ詩音まで体調を崩したことを知っているのか。

 おそらく利都から連絡を受けたとき、凰理と詩音は一緒にいたのだろう。だから、なんだというのか。

『でも、凰理に久しぶりに会ってわかったの。あのときは、やっぱりああするのがベストだったんだって』

 立場や環境が変化してすれ違ったのなら、改めて同じ社会人同士になった今のふたりはどうなのだろう。

 少なくとも詩音は完全に凰理を吹っ切った様子ではなかった。凰理だって……。

 関係ない。私には……関係ないんだ。

 紫音は奥歯をきゅっと噛みしめる。

「じゃぁ、大丈夫だって戻って伝えておいて、利都や詩音さんにも」

 凰理の顔を見ないまま告げると、気配で彼が肩をすくめたのが伝わってくる。

「お前な、まだ熱があるくせに」

「触らないで!」

 たしかめるように手を伸ばされ、紫音は反射的に凰理の手を払いのけた。凰理は目を丸くし、紫音も感情的な自分の行動に驚く。