「ご馳走様、ありがとう」

 ゆったりと過ごしたので、お茶をする人々で列ができているのと入れ違いに店を出る。宣言通り支払いを終えた凰理に紫音はお礼を告げた。

 相手が魔王とはいえ奢ってもらって感謝しないほど紫音も人間ができていないわけではない。

「紫音があそこまで甘いものが好きとは知らなかったな」

 呆れているのか、感心しているのか。デザートならいざ知れず、食事としてスイーツをたいらげるのは、根っからの甘味好きだ。

 指摘され紫音は口を尖らせる。

「甘いものならなんでもいいってわけじゃないの。あそこのお店のは特別で」

「たしかに、どれも美味かった」

 凰理の肯定に、続けようとした言葉を飲み込み目を瞬かせる。

 ふたりの足は駅の方向へ向いていた。凰理が駅の地下駐車場に車を停めているので、ついでに紫音も乗せて帰ってもらう流れになった。

 最初は凰理の提案に首を縦に振らなかった紫音だが、駅の構内での出来事がある。

 もう彼はいないだろうが、また面倒事に巻き込まれる事態は避けたい。そこを指摘され、紫音はしばし考えを巡らせた後、凰理の申し出を受け入れた。

 どうせ帰る場所は同じだ。

 帰ると言われてホッとした反面、わずかに落胆の気持ちになったのは内緒だ。デートだと意識した途端、食事を終えたら終了らしい。

 いやいや。いいでしょ、べつに。

 お互いの行きたいところにそれぞれ付き合った。五分五分だ。