経験ではなく一般的なイメージと知識で考えるが、正解は出せない。さらに紫音の思考は深みにはまっていく。

 魔王は私相手でデートになるの? 私の借りを返すって意味なら彼とってなんのメリットがあるの?

 悶々とする紫音の考えが凰理には手に取るようにわかる。相変わらず真面目というべきか、融通が利かないとでもいうのか。

 凰理はさりげなく紫音の手を引き、自分の方に注意を向けさせる。

「難しく考えなくていい。せっかく可愛い格好をしているんだ。もう少し堪能させろ」

 派手さはなくても紫音が今日はいつもより化粧や服装に力を入れているのがわからないほど凰理も野暮ではない。

 凰理がさらりと告げたのに対し紫音は瞬時に顔を赤らめ狼狽えた。

「こ、これは、その、けっしてあなたのためじゃ……」

「わかっている。ほら、時間がもったいないからさっさと行くぞ」

 凰理の言葉に紫音も素直に口を閉じ、つられるようにして歩きだす。

 デートがどういうものなのかわからない。彼がどこにいこうとしているのか、なにをしようとしているのかも。

 ただ……。

「嫌じゃない」

 誰にも聞こえないほどの小さな声で紫音は呟く。さっき探していた続きがようやく見つかった。

 駅で声をかけられた男にはそばにいられるのも、話しかけられるのも嫌だった。初対面だからとか、そういう問題じゃない。

『お前にとっては、俺もさっきの男と同類か』

 凰理だって強引に話をまとめ上げ、紫音の手を引いている。けれど本当に嫌なら紫音はなにを言われても断っている。

 たとえ借りを返すという大義名分があっても。