「ねぇ、結菜」 「なぁに、彩月」 「さっきから市条(いちじょう)くんが結菜のこと呼んでるよ」 彩月にそう言われて、私は教室の戸の方を見た。 すると拓生(たくみ)くんが教室の戸のところで私の名前を呼んでいた。 彩月に言われるまで全然気付かなかった。 最近、私は、よくなぜか自分の世界に入り込んでしまうことがある。 だからなのか、誰かが私のことを呼んでいても気付かないことがある。 「ありがとう、彩月、教えてくれて。じゃあ、ちょっと拓生くんのところに行ってくるね」 私は彩月にそう言って席を立とうとしたとき。