「何か、お前、こわい!! 嫌だ!!」
栗名の顔は引きつっていた。いっそ泣きそうな目で涼から猛スピードで離れた。一目散に逃げていった栗名を仲間1号が追って、2号と3号が何やら罵詈雑言らしき言葉を涼にぶちまけながら二人一緒に走り去っていった。
ぽつんとその場に残された涼は、
「取り逃がしたか……」
ボソッとつぶやいた。
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翌日、栗名は休みだった。
無断欠席だった。
確実に昨日の件が影響しているだろうと踏んだのか、仲間たちは放課後に涼を取り囲んで吊し上げた。
「てめえみたいなのが栗名に近づくんじゃねえ」
小さい背の仲間2号が噛みつく。
「告白しただけなのに」
さらりと返す。
自分のあまりに泰然自若な態度は、かえって彼らの反感を買ってしまうらしい。三人とも目を吊り上げて口々に怒鳴り出した。
「気持ち悪いんだよ!!」2号。
「人には態度というものがあるだろ」1号。
「根暗人間がでかいこと言ってんな」3号。
涼は言い返した。
「それは違う。僕は根暗グループではなく芸術家グループなんだ。根暗はただの根暗だけど、芸術家はそこから生まれ変わった『誇りの一匹狼』の属性なのさ。僕はそこの生まれで、弱者同士で傷の舐め合いみたいに縮こまっている根暗グループとは違う。君たちは部外者だから難しいだろうけど」
「話が長ぇ!!!」
2号が怒鳴り散らした。
「つまりお前は自分が芸術家だと信じて疑わないわけか?」
1号の低くて重い声が、あきれた意味を含むように吐き出された。
「うわー、すげえ選民思想」
3号が嫌味たっぷりに言った。
このまま話していても埒があかない。涼は鞄からいつも携帯しているA4サイズのスケッチブックを取り出した。三人は不穏そうな目つきで見張る。
ページを開き、鉛筆を持って、涼は描いた。
目の前の三人を。
いったん手が動いたらあとはもう楽だった。本能の従うままに、脳の中の神様が「描け」と命じるままに描く。ラフスケッチだから仕上がりは簡単だ。涼はほとんど手元を見ずに目の前の彼らを目に焼きつけ、それが目を通って脳に伝って頭からつま先までを駆けめぐって外に出されるのを待つだけだった。
手は武器だ。絵は手段だ。脳は司令塔だ。人は芸術だ。この社会で生きていくために何も欠かせない。