その日の授業が終わり仲間と一緒に帰る栗名を、涼は堂々とつけていった。本を片手に、隠れるでもなく、真後ろにくっついて歩いた。さすがに怪訝に思ったのだろう、栗名と仲間たちが涼の方を振り返った。

「佐藤、俺らに何か用?」

 栗名の仲間1号がでかい体で涼を見下ろした。涼も一七〇センチはあるので、上目遣いに1号を見上げた。

「栗名くんを貸してくれませんか?」

 単刀直入に言うと、1号は言われた意味がわからなかったみたいできょとんとした。涼はもう一度言った。

「君たちの友達、栗名紅葉くんを僕に貸してください」

「おい、栗名はモノじゃねーぞ。てかお前誰だよ」

 涼より小柄な体型の仲間2号が割って入った。今にも掴みかかりそうな険しい顔だ。

「僕は君たちと同じクラスの佐藤涼といいます。よろしくお願いします」

「そんな人間いたかよ」

「スズ、ちゃんとクラスメイトの顔は覚えないとー」

 仲間3号の声が、少し可笑しそうな意味を含ませて聞こえた。

「うるせえ、お前も覚えてないだろ」

「俺は女子と男子十名は覚えたぞ」

「半分もいってねーじゃん」

 2号と3号の凸凹コンビがじゃれ合いを始めて、仲間1号の方は「どうする?」と栗名に意見を求めた。

「佐藤、俺のこと借りてどうすんの?」

 守られるようにして立っていた栗名が言った。率直な疑問を口にした風だった。そこに訝るような、気味悪がるまなざしはなかった。単純に涼のしたいことを聞いている目だった。

「栗名の肖像画を描きたい」

「しょうぞうが?」と栗名は涼の言葉をくり返した。

「古くは国を治めた王や皇帝の権力を表したもの。自分の信じる絶対的な人物を己の技法で書き表したもの」

「ふ、ふうん」

 栗名は話の先が見えないようで、涼に合わせながらも引いた目をし始めた。

「君はすごい存在だから、後世に残すために僕が描かなければいけない」

 ここでやつを逃すわけにはいかない。涼はきっぱりと言い切った。
 栗名と仲間たちはいよいよわからないらしく、互いに視線を合わせだした。

「つまり君は芸術的なまでに華やかで素敵だから、何としても僕が作品として残さなければいけないんだ。美しい人を一生涯描き続けるのが僕の使命なんだよ」

 ここまで言えばさすがに届くだろうと高をくくった時、栗名が一言「こわい」と発した。

「え?」