附属中学生が使う二階玄関に上がる外階段の下で、初めてプレゼンの練習をした時もそうだった。テンドウが一晩掛けて作ってきた原稿を渡された私は、出だしの挨拶の所で堪忍袋の緒が切れてしまい、いつもの調子で噛みついた。

「これ、誤字脱字だらけだよ」

「うそだろう?昨日、何度も読み返して…」

「これで?こんな穴だらけの文章で?」

「そんな風に言うな。せっかく、漫画読むのを我慢して作ったのに」

「じゃあ、ここでそのまま読んであげようか?きっと、フランス語に聞こえてくるから」

 こんなふうに、他の子に言ったら絶交してしまいそうなことを言いながら、肩をすぼませた姿を見た途端、ため息をついて普通の日本語で読んでいく。額から落ちてくる汗を首に巻いたタオルでぬぐいながら、活舌の悪い喋りをコンクリートの階段に跳ねかせた。

「お前、固いなぁ…」

これはどんな物語か、初めの紹介を終えたところで、テンドウが、私の致命的な弱点を突いてきた。

「全身身構えて喋っているよ。聞いているこっちが緊張するくらい…」

「だって、原稿がこう書いてあるんだから、仕方ないじゃない」

「そこをアドリブで柔らかくしていかないと。モリムラやムライちゃんに話すみたいに、大好きだよって思いながらやるんだ」

「分かってる…」

「じゃあ、もう一度。ほら…」

 今度はテンドウが優位に立って、私のことを見下ろしてくる。俺は正しいことを言っている、文句あるか、と手にした原稿を振って。

「うん…」

私は、頭に血を上らせながらもう一度、初めからやり直そうと口を開く。だが、息を吸い込んだところで下を向いてしまった。

「やっぱり無理だよ。ちゃんとやろうとすればするほど、話が固くなるんだ…」

どうしようもない。一字一句、正しくしないと気が済まない性格だから。その場で機転を効かせて物事を進めていくのがまるで駄目なのだ。

傍から見たら笑ってしまいそうな姿の私を、テンドウはそれ以上追い詰めることなく、神妙な面持ちで腕を組んで、うぅん…と唸った。どうしたら私が、肩の力を抜いて喋ることができるか、真剣に考えてくれているらしい。シュワシュワと蝉の鳴き声がしみ込んでいるコンクリートの天井をしばらくの間見上げていると、唐突に口を開いた。

「じゃあ…」

「うん」

「俺を彼氏だと思ってやれ」

「……何言っているの?」

「大好きな人に伝えると思ってやれば、うまくできるんじゃないかな?」

「好きな人にだったら、かえって緊張するよ」

「そうかな?テスト勉強を教えてもらった時、すごくわかりやすかったけど」

「……?」

「日本史とか化学とか。リンの解説がとてもうまかったから頭に入ったんだ。あぁいう感じで話したらいいと思うけど…」

 いつのまにか、私のことを真っすぐ見つめて話してくる。恥ずかしいとか、誤解されるかも、なんて気持ちが微塵もない。

 テンドウにはそういう所がある。ある種、天然記念物的な人の好さが。みんな、彼のそうした一面に魅かれている。私も嫌いではない。

 でも、二人きりの状態でそんなふうにされたら、たまったものではない。同じように見つめかえすことなんてとてもできない。そんなことをしたら…そういう感じになってしまうじゃないか。

ただでさえ、頭を揺さぶられるようなことを言われて心拍数が上がっているのに。まるで私が、テンドウのことが大好きだから分かりやすく話せた、みたいな仮説になっているから困惑した。あんたのことが好きだからでは決してない、可哀そうだから勉強をみてあげたんだ、その結論に達してようやく、地面に向けて息を吐いた。

「そんなに言うんなら、今度はテンドウがやって。お手本を見せてよ」

 彼は、こちらが冷や汗を掻いているなんて知る由もなく、相変わらず涼しい顔でコンクリートの天井を見上げて言った。

「分かった。やってみる」