『それでは、授業を始めましょう
か。シオンさん、アザミさん、
教科書の13ページ、開いて。』

そういって
目の前の 女性教師は
授業を始める。

教師の名前は、
知らない。

年齢も。

担任ではない。

只、全ての教科を、
この教師から 教わるから、
恐ろしく優秀なのだろう。

現に、
私の隣に座る彼女は、
私より学年は下だ。



あれは、
もう10年以上前になる、
本来なら高校生として 迎えた
季節。

シオンは、
関西の中心地にある
駅ビルの1つで、
『高校』の授業を受けていた。

生徒は 隣の彼女、アザミと
自分、シオンだけ。

ここは、
『陰の学校』だ。

シオンも、こうなるまで、
知る事がなかったが、
西には
企業家倒産の時における
いくつかの共済保険が独自的に

闇に
存在する。

その1つに、
倒産による
夜逃げ企業家家族の
教育機関が あるのだ。

必ず開校されるわけではなく、
好景気時なら0人生徒。

不況になれば、
中学生で1くくり、
高校生で1くくり
それぞれ
隣の教室で、
全教科を 開校される。

シオンの時は
世界的経済不況の煽りで、
中学教室に 3人。
そして
この高校教室に シオンとアザミの
2人で 開校された。

多い方、らしい。

大抵、この生徒は子女。

子息達は、基本帝王学までないが
それまでに
経営学など学んでいて、
稼業の事業情報という
アベレージがある。

その為、
役立ち所が多いのだろう。

倒産の憂き目でも、
親族、知り合いに
引き取られて
学業を継続する事が
多い。

けれど、
子女は、よっぽどなければ
そのような 旨みがないのか
親戚などからの 待遇はなく、

共済に組する
企業家の協賛金や、
寄付で
闇に運営される
ここへ来る
という事実がある。

高校生の年齢である
シオンは、この『陰の学校』で、
卒業資格を習得する
しかない。

ここで、時間を稼ぎながら、
程なく 事業を建て直したり、
嫁入り先が決まったり
すれば、
年度途中でも
子女達は 姿を消す。

大企業ではなく、
中堅会社の令嬢達では

それがなければ、
とにかくここで卒業資格を
もらい、
自分で進学するか、
就職をするしかない。

そんな中
シオンと、アザミは
今日も、隣同士で、ほぼ
マンツーマンで
名も知らない 女性教師の授業を
受けていた。

そんな時だと思う。

駅ビルの 廊下側の窓から、
顔を出して 急に覗いた
タレ目の青年が、

武久一こと、ハジメだった。

彼は、
母親の名代として
この日 『陰の学校』に

訪れていた。

と、後で シオンは聞いた。


『陰の学校』には、
チャイムは鳴らない。




「・・・」

今日、
あんな遠い時間を
思い出すなんてねっ 、、
そう、
頭に浮かんだ光景を
シオンは
もとに 記憶の引き出しに 沈める。

表情には、明るさだけを
乗せて、

「アタシとハジメオーナー?
そんなに珍しくない話でっ、
アタシが高校の時に、
ハジメオーナーが、学校の見学に
来た時から?ですよね?」

シオンは、
溺れかけた記憶から
一旦浮上し、
まず、ケイトウに笑って見せて、

ハジメに目線を移した。


「う~ん。ほんと、どれぐらいに
なるのかなあ~。僕も 大学
インターン前かなぁ。てぇ、
ことはぁ10年は 立ってるの
かぁ。早いよねぇ~。うん。」

ほんとに、腐れ縁かなぁ~と
ハジメが ケラケラと
笑うのを、

「ならっ、ヨミ先輩とハジメ
オーナーなんて、中学からの
付き合いですよねぇ、もう
幼馴染っていうぐらいっ、
『腐れ縁』じゃないですか?」

やや、食い気味に
シオンが
ヨミを横槍に出して
ハジメを追いたてる。

途端に、
ケイトウとダレンが、
ヨミに視線をやって、

「え、そんなに、、、」
「ウワゥ、」

唸った。
成功だ。

こうして、満足感したシオンの
側から、

ヨミに

「余計な事は言わなくて宜しい!
後輩ちゃん!!
年がばれるでしょ!はい、この
話は終わり!この後、下で
ディナーの予定よ。いい?」

パンと軽いリズムで
顔の前、手を叩かれる。
それは、
次の合図。

ラウンジにも、
どこかの オフィスからか、
仕立てのいいスーツ姿の
男性陣が 品良い声を立てて
現れた。

「イェース↑↑!ディナー&
ステイね!オーナーサンキュー
です!今日は、シオーンとヨミ
3人で、パジャマパーティー、
サイコーですね↑↑!!」

ケイトウの声が、
そんな新手の客陣の
声を消した。

すでに、
アフタヌーンティーは
片付けられて、
ラウンジは 黄昏時を迎えている。


きっとねっ、
最上階展望フロアの眺めは、
極上のサンセットビュー
だろうなー。

シオンは、窓の外を見て、

「ヨミ先輩、アタシ、予定通り
この後ちょっと人に 会うんで
ディナーは、ホテルの夜食に
してもらっていいですか?」

ヨミに 少し
申し訳無さげに
伝えた。

「ああ、そうだったわね。了解。
って、後輩ちゃん、ちゃっかり
部屋に夜食オーダーするのね?
さすが、食べ物だけは、
譲らないっていうか。」

てへへ。ですねっ。
呆れ顔のヨミ先輩は、それでも
OKサインをくれるんですっ。


「ノー!!シオーン!
ディナーは?
下のラグジュアリーフレンチ!
一緒しないのですか!」

ケイトウが、シオンの肩を
掴んで揺らすから、
シオンはカクカクと

「ごめんねーっ。同級生が ここに
いるんだよー。久しぶりに
会えるから、どうしてもねー。
ほら 今日は、部屋一緒に泊まる
から、ケイトウ。sorryー。」

頭、
揺らされながら、
言い訳をしておく。

電話をかけていたヨミが、
シオンに OKマークを
指で作った。

どっちにせよ、
今日は、
ディナーの後も 下のホテルに
ギャラリーで
男女別れて
ホテルのラグジュアリーな
お部屋を、
ハジメオーナー様が
取ってくれている
わけですっ。


女性陣は、
3人の女子会で、

男性達は、バーかラウンジで
飲み会になる。
ーーーはず。


「ディナーはぁ、残念だけど~、
シオンくんは 時間大丈夫?
待ち合わせ。間に合うかなぁ?」

今さらながら、
ハジメが 時間を気にして
腕にした時計を
確認して、シオンに
声をかけてくれる。

「あ、オーナー、大丈夫ですっ。
この下のホテルで働いてるんで
直接、顔 見に行けば。
あの、アザミちゃん、ここで
今働いてて。覚えてますよね?」

ラウンジから、
エレベーターホールに
全員移動しながら、
シオンは、
下のフロアを
指さした。

何機もある
エレベーターは、
音もなく すぐにフロアへ来て
その 重厚な扉を開く。

「あれぇ?!今から会うのぉ、
アザミちゃんなんだぁ。
なんだ、なら誘ったらいいよぉ。
僕だってぇ
アザミちゃん 会いたよん~。」

ハジメは、タレた目を
さらにハの字にして、

ヨミから
カードキーを貰う。

今日の宿、ルームキーだ。

「覚えてましたか!なーんだ。
なら、アザミちゃんと相談して
もしかしたら合流してっ、
いいですか?図々しいですけど」

ヨミは、手際よく
ダレンやケイトウにも
カードキーを
配り終えて、
最後、ちゃんと
シオンにも渡しながら

「後輩ちゃんの図々しいのは、
今に始まったわけじゃない
でしょ?オーナーが了承なら
連れていらっしゃい。
私も、会ってみたいし。」

シオンの頭を
軽ーく、小突く。

イタイですって、ヨミ先輩っ。


高速エレベーターは、
スタイリッシュに
7の番号を
電灯させて、

扉を開ける。

「ありがとうございますっ!
じゃあ、先輩ー。可愛い 後輩の
荷物だけ、部屋に持っていって
くれませんかー。すいません」

シオンは、
顔の前で 両手を合わせて
ヨミに、
おねだりする。

1度 新オフィスに置いている
荷物を取って、
改めて オフィスクローズに
戻った、ハジメ達。

思い思いに、
鞄や、トランクを
手にしている。



「いやですわ!シオーン。
ワタクシがトランク、
ピックアップしますわ。
かわり、アピアランス
楽しみ、してるね↑↑」

ケイトウが、シオンの鞄を
引ったくって
バンバンと バグしていく。

「ありがとうっ。じゃ、
アタシ、下に行きますねっ。」

シオンも、
バンバンバグをケイトウに
して エレベーターボタンを
下に押す。

それに
ダレンが、?な顔をして

ハジメ達は、
再び エレベーターを
上にボタンを押す。

「1つ下のサロンホールに、
彼女いてるみたいなんで。」

一足先に
シオンが呼んだ エレベーターが
来ている。

あわただしく、
降りてきた
エレベーターに 飛びのりつつ、
シオンが 上に昇る
ハジメ達に 叫ぶと、

そのまま、

ハジメ達の目の前で、
その重厚な扉は 閉まり、

『チン♪』と、

合図をして

シオンを乗せた扉は、

下降ランプを灯した。