「あーーー!もう疲れたーっ」

シオンは
ぶっ厚いファイルを
何冊も
手にして、

半2階壁のキャビネットと
下フロアを
ウォークステップで
それこそ、
何回も、何回も、何回も、
昇降昇降昇降

している。

「想像ーしてたけどっ、オフィス
の転居って、しぬーっ!!」

シオンの叫びに、
他のスタッフも 苦笑した。

ギャラリー『武々1B』は
本部を
石川に置いて、

東日本オフィスとして
道東北、
関東、
中部の6ルーム。

西日本オフィスがまとめる
関西、
山四国、
九州沖の6ルーム

を全国に
アンテナオフィスに
おいて
各スタッフ2名が
在中する
スタイル。

オーナーのハジメが
6各ルームを
廻る事は 常だが、
アンテナルームで、
行き来する事はない。
が、
リモートでの
ミーティングで、
互いの顔は知るし、

やりとりをすれば、
本部のヨミと、もと関西のシオン
達みたいに
私的に会って 仲良くなる事は
多々に ある。

「こればかりは、仕方のない事よ
後輩ちゃん。PCで管理してても
ファイリングで、 作品と 顧客の
管理はしないとダメなんだから」

ヨミは、ほぼ2階位置の
高天井ロフトに配した
オーナーデスク環境を
整えながら
文句をいうシオンを諌めた。

今日も今日とて、
相変わらずの
クールビューティーは
お気に入りブランドの
眼鏡を
指で スッと上げる仕草に
嫌みはない。

「シオーン!ソーリー。どうして
も、自分たちのデスクは、自分
でセットアップってなるから」

ライトブラウンの巻き髪を
ポニーテールにして
ケイトウが苦戦している。

オフィスは、広くはないが、
ロフトがあるぐらい、
天井が高く、
壁には 背の高いキャビネットが
並ぶ。

「仕方ないよねっ!私はどーせ
体力要員でのヘルプだしっ!」

シオンは

天井キャビネットの前にある、
後付けのインテリアイントレの
上から
今度は ケイトウを
眺める。

このイントレには
アイアンの螺旋ステップが
設置されて、
高い位置のキャビネットでも
ファイルを出し入れ出来る
作りにしていた。

「 ボクとて、
ファイル棚のラインアップ
などと、か弱いシオン姫に
課せるのは、本位じゃないさ」

オーナーデスクのある
ロフトから3段降りた
スキップフロアには、
ダレンと、ケイトウのデスク。

そこで セットアップする
ダレンも、
シオンに 言葉をかけるが、、

その切れ長の目顔は、
あまり
悪いって表情じゃないよねっ?
ダレンは
どっちかっていうと
体力無さげ?優男?
いや、意外と細マッチョ?
とにかく、
体力仕事しないよね!

「はい、ダレン、ウソーっ!」

うちの男性陣は優しい宣言撤回!

イントレの上から、
改めてダレンの体を
鑑賞しつつも、

シオンは
スキップフロアの
ダレンに、そう言い放つ。

ダレンが、
両肩をそびやかして、
降参ポーズだけした。

シオンは
そんなダレンを、
目を細め見るしかない。

1番下のフロアになる場所に
置かれた
来客対応用の丸テーブルに
資料を広げ、
円形に組まれた
ソファーに
座る
ハジメに、声をかけた。

「ハジメオーナーっ!何見てる
んですか?もーすぐ ファイル
片付け終わるんですけど、
次やること ありますかー?!」

壁のイントレや、ロフト、
スキップフロアに
ぐるりと 周りを
囲まれて、
ハジメが座る
円形テーブルソファーは
さながら
コロッセオだ。

「その~、ファイルの
段ボールでぇ、最後だからぁ、
キャビネットは終了だよん。
あ・と・は・
リネンで、誇りを拭いてぇ、
一旦終わり~。お疲れ~。」

それって
まだ終わってませーんっ!
と、
シオンは ブンブン手を振った。

ファイルを 棚に納めて、
螺旋にステップを
降りた シオンは、
ハジメの広げる
資料の前にきて

それをのぞく。

「なんだー、このオフィスに飾る
作品のリストですかーっ?」

ハジメは、
空の段ボールを畳む シオンに
口を弓なりにして

「正解~。ほらぁ、ここぉ
東の顔になるしねぇ。ヒルズ
ビレッジの顧客層もぉ、ある?」

口調と同じく
ゆるーいブラウンパーマの
前髪下から
タレた目をウインクさせる。

「てかっ!このヒルズビレッジ
半端なくロイヤル仕様ですよね、
ちょっと意外でしたよっ!
てっきり、前の老舗画廊街から
オフィスは 移動させないって
思ってましたし。
オーナー自身、ハイソ居住区は
避けて、いるのかなーって、、」

後半、
シオンの声は 段々小さくなる。
途中で、余計なセリフだと
気付いたように。

それにハジメも、おやぁっと
シオンの思考を読んで
気にするなとばかり
片手を
ヒラヒラさせた。

「別にぃ、このヒルズの持ち主は
父の所とは 無関係だしねぇ。
ほらぁ、新進気鋭のジュニア子息
子女とかね、若手御曹司とかが
御用達だよ~。知る人もないよ」

そう事も無げに返事して
ハジメは、
麻スーツを纏う足を
組み換える。

このオーナーは、
そんなに背が高いわけでも
ないのに、足は長い。

て?胴か短いか、
頭が小さいの?
やだやだ、訳ありのくせ
印象薄めな
このイケメンっぼちゃっまめ!

シオンは、
今度は ハジメの足を
ジト目で眺める。

「そうなんですねっ。でも、
別にオフィスを移さなくても
良かったんじゃないですかー?
もう、乙女の二の腕が
お陰で、パンパンですよっ!」

八つ当たりして、
ロフト下の オフィスキッチンに
リネンを取りに行くわけで。

「シオン姫は、ご機嫌斜めと。
ケイトウ、そろそろこっちは
アップ完了だ。シオン姫の
二の腕を 『宮廷式マッサージ』
で、癒しても良いだろうか?」

不穏なダレンの そんな声に、
ケイトウが

「ノー!!やめて!!セクハラ
ですね!ダレンといい、オーナ
ーといい、シオンを取らないで
欲しいのです。ダメ独りじめ!」

そんなやりとりを
ようやく、オーナーデスクの
整えを、目鼻が立つところまで
仕上げた
ヨミが 嗜めた。
細かいインテリアは、
今、ハジメオーナーが
資料を広げる中に
リストされている
はず。

「オーナー。そろそろデスク
完了しますので、ご確認ください

ダレンと、ケイトウも
もう終わりそうよね?後輩ちゃん
と、リネンでクリンリネスして」

キッチンからリネンを
持って戻ったシオンは、
手早く オフィス内のインテリアを
拭き掃除する。

「後輩ちゃん、さっきの話だけど
今回の移転は、純粋に家賃が
高くなった からってワケも
なきにしもあらず、なのよ。」

ヨミは、
そういいながら ロフトから
ステップフロアに降りて、
ハジメが座る テーブルに
寄りながら、
アンティークチェアを拭く
シオンに 応える。

「家賃ですか?」

「まあねぇ~。銀座へのブランド
進出は まだまだ海外からある
みたいでねぇ、もうかなりの
所が~、 京橋あたりに移転して
るのがぁ現状だよん~。
テナントビルの所有もどんどん
海外オーナーに変わってるしぃ」

ヨミに、変わって
ハジメが 資料から目を離さない
ままに、シオンの
疑問を埋める。

「この国の魅力はぁ、住んでる
いる 人間以上に、海外からは~
青い芝生なのだろうねぇ。」

「ならっ、他と同じ様に京橋
辺りでも、引っ越しは有りです
よねっ?ここも 家賃高そう」

改めて、シオンは
リネンを手に持ったまま
オフィスを見回す。
まるで、
掃除をする
シンデレラのように。

「後輩ちゃん。このオフィスでは
オーナー、新しく
『サブスクリプション』ようは、
レンタルアートも 手掛ける予定
なのよ。だから、あの奥にね。」

ヨミは、目線で
ロフトの下を示す。
実は ロフトの下は
ウォークスルーで、その向こうに
ブースがある。
来客ソファーに座ると
ブースがよく見える仕組みだ。

「ギャラリーは持たないけどー、
インテリアアートの提案をする
ブースは有るってことですねっ」

各々リネンを手に
ダレンと、ケイトウが戻って

クラシックアイアンの
イントレを拭き掃除だ。

「ウワウ。シオーンはまだ、
『例のブツ』を見ては
ないのね?オーナー?」

ケイトウが、
ある壁の向こうを指さす。

「あっち、 何あるんですかっ?」

「今回のオフィスを~、低層
フロアでぇ、借りた
本当の理由だよん~。見るぅ?」

ケイトウの言葉に
不可解さを覚えたシオンを、
ハジメが
壁向こうの
奥に 手招く。

行くと、そこには
まだ 奥に部屋があった。

「これって?!」

シオンが 度肝を抜かれたのも
わけない。

その部屋には 床から天井までの
バンク金庫室ような
ハンドル扉が そびえていた。

「本物の銀行金庫室な扉じゃあ
ないよん。でも、重量があるから
高層フロアはぁ、残念ながら~
借りれなかったなあ~。」

いやっ、個人金庫室で、
こんな仰々しいのは 初めてっ
て、オーナーは前職で
こーゆー金庫室は
当たり前に見てる?

「どう?後輩ちゃん?
お坊ちゃまのスケールでしょ?」

ヨミが、シオンの後ろから
金庫室の前に
ひょこっと、姿をのぞかせる。

「ようは、こーゆーのを使って
でも、作品をこのオフィスに
プールしておくような、顧客が
ヒルズファシリティにいるって
事ですよねっ!びっくりです!」

これから、また展開が
新しくなるんですねーっと、
シオンが
しみじみと
金庫のハンドルを
なぜて、

呟くと、

ハジメが怪訝な表情を
見せて、
ヨミも 金庫の前に佇む
シオンを
見つめていた。