再び、そして
今度は 1人で戻ってきた
ヒルズビレッジにある
タワーオフィスのエレベーター。

エントランスに 佇む 。

昼間に訪れた
巨大な総合病院も
リュクスなホスピタルセンター
だったが、
このタワーもモダンだ。

何機もあるエレベーター。

意匠として
アンティークシステマチックに
動力部分をオープンさせた
エレベーターホールは

巨大な時計の歯車が 銀河の様に
回転し、重厚な
デザインを加える。

そんな風に
考えて、レンは 昼間に
渡された
ヒルズビレッジ関係者だけが持つ
専用カードキーを
手にした。

召還した、エレベーターの
扉が開く。

中から 1人、
長身の女性が
降りて、レンの横を スッと
通り過ぎれば
やや 胸元より下

懐かしい香りが、僅かにした
気がして 思わず
レンの 瞳孔が開く。

一瞬にして 脳裏に浮かぶ
愛しく 遠い情景。

どうやら、呼び出したは
唯一自分が拘る
情念らしい。

見知らぬ 女性が見せる
一纏めにしただけの
後ろ姿を、
エレベーターの内側から
暫し
ほの昏く 見つめる。

泡立つ 心を静かにして
カードキーを タッチさせてから
フロアボタンを

レンは 押した。

↓↓↓


「奇遇ですね、ハジメさん。
こちらで お会いできるとは。
新オフィス、 移転。
おめでとうございます。
先日は 指輪のメンテナンスも、
ありがとうございました。」

まるで 予定調和の如く 台詞吐き
出現した 彼。

ハジメオーナーが
ディレクター(Dir)の略呼で
話かける
男が 自分の眼前に
降り立ったのは
ディナーを終え、ラウンジで
2人。
オーナーは 『ヘネシー』、
自分は『バランタイン』を
傾けていた頃だった。

ギャラリーの女性陣は
『女子会』だとホテルへ下り、
ギャラリーメンズ
水入らずと言った 一時だ。

彼のDir。
いつもならば、
ケイトウが お相手をしている、
確か 企業研究センターの
人間だったはず

『氷の貴公子』と敬称するが
ピッタリの、長身の美丈夫。

自分と 正式に挨拶するは
初めて故に
まずは 名刺を交換す。

それを確認しつつ
いや、これは なかなかの
企業戦士と、紙面より認識。

合わせて
濃紺スリーピースの下。
護身術、嗜むかの 上腕を
盗み見る。


「やめて~。相変わらず喰えない
挨拶だよねん。私は Dirと、並び
たくない~。黒髪がなびくとか
さあ、Dir やめて~。Assoc君
は?ほら?爽やか脳筋くん。」

どうやら、Dirな彼は
ハジメオーナーと 気の置けない
仲と見える。
しかもAssocと呼ぶ脳筋部下にも
気安いと推測。
にしても総じて、
如何な カンパニーか。
いや、よく知る大企業だが。
何奴?

「カスガはもう上がりましたよ。
その節は、ハジメさんには貸しを
作ってしまいましたね。
ダレンさんは、、、
お茶を嗜まれるの ですか。
いや、失礼。移り香でですよ」

「クックっ、Dirも 鼻が効くよねん
Assoc君を置いてきぼりで
ここで 休憩なのぉ~?」

微笑みの指摘に
思わず自分のスーツから
『オマッチャ香』するのかと
然り気無く
腕を上げて 嗅いでみる。

「いえ、人と会う約束を。
わざわざ、キーまで貸して頂いた
もので 断れなかっただけですが。
ハジメさんがいるなら、上がって
きた甲斐が、ありましたね。」

彼のDirは クールに
笑みを浮かべるが、なんだ?


「ふ~ん。なるほどねぇ。
ならぁ、
1つさぁ、前から気になって
いたんだけどさぁ、シオンくん
って
「従姉妹ですよ。 ハジメさん」
え!
えっ?そうなの~、てっきり
元カノかと思ったんだけどぉ。」

はい?!
オーナーの言葉に
被せてきた Dirの台詞は、
聞き捨てならぬ。
このDirなる男、シオン姫の
従兄弟と!

改めて
目の前の 貴公子を
頭のテッペンから、足の先まで
観察する。

ほう、それでか。
先程オーナーと 話していた
メンテナンス済みの指輪。
あれは、確か シオン姫が
ギャラリーディスプレイにと
彫金したモノだ。

「まさか、元カノと思われて
いたとは 考えもしません
でしたね。意地悪く、へんな
B面を 推理しないで下さいね。
『武々1B』オーナー武久一さん」

ハジメオーナーに
あぁ。本当に 綺麗に、
口を弓なりにして
表情固定のスマイル、怖い。

よくも またオーナーは、

「アハハは!って爽やかに笑って
くれちゃって! そんなとこ
嫌いじゃないんだよねぇ。」

どこ吹く風で Dirの肩を
叩いてるから、こちらも
怖い。

「よろしければ、Dir、
何か、頼まれますか?」

風向きを変える為にも、
自分が グラスを振って
彼のDirに 声掛けを

した途端だった。

バタバタと エントランスから
1人の男が 足早に 向かってきて
彼のDirに声を かける。

どうやら、待ち人の 様だ。
Dirは その男と 短くやり取りを
して、

「すみません、待ち合わせの
相手が来ましたので、ここで
失礼します。
ハジメさん、ダレンさん、また
お会いした時にでも。では。」

スタッと それでいて
覚えとけと言わん眼差しで
頭を下げつつ
行ってしまう。
相手の男も、
こちらに きっちりと会釈。

そのままラウンジを使うのかと
思えば、
折り返して、
エレベーターホールに 2人は
消えた。

「慌ただしそうですね。」

自分が 誰となしに 呟くと、

「急用なのかもねぇ~。」


ハジメオーナーは呑気に
空になったグラスを振るので、

「じゃあ、オーナー 追加で
何か、頼みましょうか。
お供しますよ、自分も。」

そうして、
ハジメオーナーと2人
窓際からの夜景を
愛でながら
追加のグラスを傾けた。

先程の 貴公子に関しては
ノーコメントで。

↓↓↓↓↓

スイートルームには
2つシャワールームがあったから
ヨミ先輩と ケイトウに
先にシャワーをしてもらったー。

ルームサービスで頼んだ
フルーツ。

コアントローとペパーミントの
香りがする フィズは
ピンク色に冷たく、それを

1人で
楽しんでいる。

2人が出てて、シャワーを
交代したら、
『まくら投げ』だって
ケイトウが 張り切ってたからっ
今のうちに
飲んじゃうのだよっ。

アサミちゃん ことアザミちゃん。
今はまだ
帰りの電車かなー。とか
考えてしまう。

今日、本当に短い時間の再会。
あまり 沢山は話、
しなかった なあー。

会ったけど、、、。
良かったんだろうか。
きっと アザミちゃんも
ようやく 色んな意味で
日常になったはず。

アタシも、結局ギャラリーで
お世話になる頃まで、
かかったもんねっ。

夜逃げた 気持ちも、
パパの会社、整理する事も。

「・・・・」

窓際のサイドテーブルに
フルーツとカクテルグラスを
持って行く。

目の下に見える
光の流れの どれかは
アザミちゃんの乗る電車かも
しれないなと 今度は
思う。
そして 街の灯りから 夜空に
視線を上げた。

「後輩ちゃん、シャワー
あいたわよ。お先に頂きました。
あら、もう貴女は飲んでるの!」

先輩が、
ドライヤーを 持って
悩ましきかなバスローブ姿で
こっちの 窓際にくる。

「先輩!あれっ。ヘリですよね。
もしかして、ここのヘリポート
着くのかもですよっ!今って、」

迫る特徴あるライトを
指さして、先輩に言えば。

「ほんとだわ。ここ、
そういえば、ポートあったわね」

「でも、先輩、こんな
今規制して、 厳戒体制の時
なのに、 ヘリ飛ばせますっ?」

「 それでも 飛ばすということは
要人だわね。オーナーも
見てるハズだから、また忙しく
なるかもね、後輩ちゃん。」

えーっ!それどーゆー事ですか!
って 目を白黒させてると、
ヨミ先輩が、
ツーブリッジの眼鏡を
指先で、押し上げて

「このヒルズビレッジは、
ナショナルゲートって事よ。
下手したら、大使会議とかの
対応が、例のホールでもある
かもって話だわ。なら、
『サブスクリプション』する
作品も出てくるでしょう?」

はあーっ、
文字通り 雲の上の
話ですねと 言いつつ

シオンは 1つ
フルーツから イチゴを
摘まんで かじった。