それは、急にやってきた。

いつもなら、必ずといっていい程
アザミちゃんは 教室に
先に来ていて、

アタシが 下から上がってくるのを
挨拶をして
待ってるのに。

この日は
『学校』の授業が、先生が
入ってきて 始まったのに
隣の アザミちゃんが
来ない。

担任?でもない先生に
聞くことなんて
出来なくて、
そのまま 古文の授業が
流れるのを
アタシは 受けとめていた。


ふいに、
何か?が呼んだ気がして、
先生の言葉から

自分の意識が 切れた。

風の音?

きっと 煽られる風の声!

そしたら、廊下を
走る音がして
『ガターーンッッ』

て、教室の戸が 思いっきり
引開けられた ドア口に、

ハアハアって
凄い息をして、

真っ白な顔の アザミちゃん?

ゼイゼイして、
なんだか 言葉にならないみたいで

ただ、
その手に握られたのを
アザミちゃんは アタシに 見せた。

『黒のカードキー』。

!!!

ああ、片道オープンの
『飛ぶ』時のヤツ

だって
頭が認識したら、そのまま
アタシは

自分が 座ってた
椅子を『ガターーンッ』って
ぶっ飛ばして
廊下に 走る。と、
アザミちゃん!!って叫ぼうって
なのに

『アザミーーーー!!!』

聞いたことない 大声で叫ぶ
アザミちゃんの お母さんの声に

アタシが 思った口の動きが
かき消された、、、、、っ!

扉に掛けられた
アザミちゃんの 手に
自分の手が 少し触れたところが

すぐに 離されたら、
アザミちゃんは、エレベーターに
向かいながら 走ってんのに。

泣きそうなのに、
凄く笑ってて、何笑ってんだよ
って、
アタシは 廊下に追いかけながら

よくわからないけど、
めちゃくちゃ 涙流しながら、

降りてきて、中に
アザミちゃんの お母さんが
呼び叫んでる、
そこに走り行く アザミちゃんの
背中に手を伸ばして、
伸ばして、伸ばして!

閉まる エレベーターの扉に
ガシッて 両手をかけてた。

ぐいぐい閉まる、
エレベーターの中の
アザミちゃんのお母さんを
見たら
背中に、ちっさい仏壇だけ
しょっててさ。
笑いそうになったら
手の力が ゆるんじゃうよ。

アザミちゃんは、

『シオンちゃんさ、絶対手紙
出す、出すからさ、』

って、アタシの 今の、それに
これからの住所なんか、
アタシだって
どーなるか わかんない くせに
約束を叫ぶんだよ。

『バカッッ!!幸せなれーー!』

って、それで いいんだよっ
叫んでやって、

気が付いたら
そのまま 先生に
羽交い締めされて エレベーター
から
引き剥がされて 嗚咽して
床に座りこんで
号泣して、

隣の教室にいた
中学組の子達も、気がついたら
みんな 廊下出てきてて、

泣いてるのを
ようやく 自分が 気がついた。


朝から、
凄い車が並んでるなあとか、

駅ビルの 両側のスーツが
やけに 多いなあって
思って 迷宮を

『登校 』してきた アタシは

頭で わかってたと思う。

気持ちが ついてかなくて。
ただね。

1人にしないでよって。

明日から 1人で 授業なんて
涙が出るよ、ほんとって。


入校の時に聞いた。

黒いカードキーは
『学校』を出る時の

片道カードキーだ。

いつもの 聖域エレベーターに
タッチすれば、

もう 途中下車はできないまま、
迷宮駅ビルの
深部階まで 降りて、

地下私道を走る ターミナルに
つくとだけ
聞いた。

ターミナルといっても、
きっと 止まってるのは
ワゴン車一台だろう。

そして
地下私道を走った後
どこからか、地上にでて、
どこか飛行場にでも
いくんだと
アタシは
どこか 思っている。

アザミちゃんは、
デイバック1つだけ背負って
仏壇しょったお母さんと
この日消えて、

アタシの手ある

『白いカードキー』では
あのシンデレラの隠れ家への
非常階段は

開かなくなってた。

アタシは箱庭に取り残された。