「ヨミ女史、どうかしました?」

いつの間にか 隣に来ていた
ダレンに声を掛けられ
ヨミは 手放した意識を
戻した。

「 あらやだ。ちょっとね。ほら、
後輩ちゃんも この景色見れば
良かったのにって思ってね。」

ヨミは、ダレンに
窓の景色を 指す。

「 ええ、シオン姫は この美しい
景色を見逃すなんて、
勿体ない事をしました。そう、
こっちに来る事が無いのだし」

ああ、
オーナーが
呼んでますよ。と、
ダレンが
展望フロアの奥を
見て、
ヨミを そちらに促す。

「 そうね。後から、『お友達』と
合流できれば いいのだけど。」

ヨミは、言葉にして
ダレンと、ハジメ達のいる
場所へ と
歩きながら
周りに展開される
光景を 眺める。


『じゃあ、また後でっ。先輩!』

閉まりゆく
重厚で エグゼクティブな
デザインドアの
向こう側で、

カードキーを振る
後輩の姿を、
眼下に暮れ行く 景色の中に
浮かべる。


まだディナーには早いからと、
最上階にある展望フロアーまで
上って
ハジメ達は
360度、首都圏の高層景色を
窓沿いに 並べられた
スクエアソファーに寛ぎ
堪能していた。

「や~、どうだったぁ?あっち
だとタワーがぁ、見えたかなん」

ハジメは、やけに楽しそうにして
戻って来た ヨミと、ダレンに
ヒラヒラ 手を振った。

「プリーズ、Msヨミ!
ここすわってくださいね!汗」

ケイトウは、、意外に高所が
苦手なのか、顔を青ざめさせて
ヨミを 隣に呼ぶ。

「 オーナー!ケイトウが 怖がって
いるじゃないですか。位置を
変わってあげるべきでしょ!」

展望フロアは
天井から 床までが、
ガラスが無いのか?という程の
クリアウインドウ。

まるで 夕焼けの中
夜景へと、変わりゆく 都会に
ダイブしそうな
錯覚に 落ちる。

「だからさぁ、ケイトゥには~
ガラスを背中に出来る スツール
に座らせているじゃない~。」

ハジメは、悪気がない顔で、
両手を上げるポーズを
ヨミにして、見せた。

いえ、オーナー
きっと背中から
悪寒が這うような 感覚席ですよ
それ。

「それにしても、綺麗に タワーが
見れるフロアーですね。ここは」

ダレンが、感嘆してハジメに
さっきの景色を 報告する。

それは、
このソファーから
少しだけ、場所をかえれば、
シンボルとなる
大小のタワーさえ眺められる
贅沢なロケーションに
ヒルズビレッジがある
証拠。

「 ノー。ワタシも 苦手じゃ
なければ、タワービューしたい
のですね。けど、ムリ!!」

ケイトウの絶叫に、一同
笑うしかない。

世界には、
絶景といわれる 夜景があるが、

どこまでも、視界いっぱいに
広がる この街の夜景は、
別格だという。

「 ええ、とても良くできた
展望フロアですわ。この、
ウインドウにぐるりと、灯る
フットライトの演出が効いて、」

沈む夕陽が フロアに陰を
落としていくと、
窓の足元を照らす オレンジの
ライトが、ボンヤリと床を
幻想的に
浮き上がらせる。

同時に、ヨミは
どちらかといえば、

川向に広がる都会の
真ん中にタワーが立つのが
見える
もう1つのタワーから見る

夕焼け夜景が
1番好きだと思った。

まるで、砂漠に現れた
輝く夢のような パノラマ。

川を越えないと、
それは、とても手に入れる
事なんて出来ない
そんな夜景。

「 ここは 街ごと、夜景を
手に入れた そんな 贅沢な
気分に、、なりますわ、、」


後輩は、
『同級生のアザミ』に会うと
言っていた。

彼女が、後輩と
小中高短一貫の女子学園で、
同窓だというのは
知っていた。

けれど、
このヒルズビレッジ、

いや『東に』来ていたとは
思いもしなかった。


ダレンが、ケイトウを
揶揄しながら、
ハジメに 話す声がする。

なのに、
つい ヨミは 後輩とその
『同級生』に思いを寄せる。

アザミ=莇美。


この国が類をみない
好景気に潤っていた時。

いわゆる『不動産王』と呼ばれる
存在が 数多くにいた時代。

このタワーオフィスがある
『ヒルズ』という形態を
生み出し、
世界の 長者番付1位にもなった
有名な不動産王も、
その頃に台頭した人物だった
と記憶する。

学者ならではの 合理さ、
経営知識を活かしたタイプの
不動産王だ。

今では当たり前になった

地権者、借地権者共同での
先進的な開発で、
ヒルズスタイルを確立した。

所有不動産を担保に
資金で開発した不動産を
担保に、
さらに融資を受け
近隣まとめ開発を続けて、
ビル単一ではなく、
一画ヒルズ化をして
トレンド価値を高め拡大。

それにより
地域の魅力を高めた
ヒルズスタイルは、みごと
時代にマッチング成功し
今にいたる。

「 ハジメオーナー、
こちらのヒルズビレッジは、
所有は、今回、動産グループ
ではなかったのですよね?」

ヨミは、歓談するハジメに
思い立って聞く。

「うん~。そうだよん。ここはぁ
旧財閥所有でぇ 開発してる」

ん?何ぃ~?と、
ハジメが ヨミに 首を傾げて
いるが、ヨミは
それを放って思考の海に
再度 沈む。
顎に、片手を当てて 思いを
巡らすヨミを、ハジメも
追及はしない。



『西山王』と呼ばれた
『西山莇美』の父親は、

転じて、
もう1つの不動産王スタイル。
いかにも、
不動産を扱う キングだった。

資産をキャッシュで
常にジュラルミン満タンに
積めて、歩くのも有名。

西日本の
繁華街を中心に
ビル賃貸業の業績を上げた。

衛星都市の
目抜き通りでの ビル建設は
好景気需要にあって
最盛期の 私生活は
伝説的に派手だったと
聞く。

手腕は、国内のみならず
海外の動産をも
まさに 買い漁りながら。
加えて
赤字申告をすることで、
法人税を支払ったことが
ない
ことでも 有名だった。

報酬の水増し、
設備投資の前倒し、
利益発生の翌年期には
赤字申告をするという、
ある意味
典型的
違法節税方法で 脱税。

『信用できるのは自分だけ、
家族もいらない』という

破天荒な不動産王。

『西山王』の西山は、名前由来
だけでなく、
西日本の 山林売買を
多くしていた為 でもある。

どうも立木権を
海外客に斡旋し結局、
何らかのトラブルがあったと
噂が立った頃
一代で築いた栄華の男は
姿を消した。


「 オーナーは、後輩ちゃんの、、
『 同級生』と、お知り合いだった
のですね、、
存じ上げませんでしたわ、、」

気が付くと、そう
ヨミの口から 考えが 漏れて
出ていたらしい。

ハジメが
ああ、それを考えてたのぉと

「意外かなぁ?でもさぁ、前職で
有名人だったからねぇ~ほら」

お父上がさぁ~と、
ヨミの漏れたセリフに
返した。


彼の妻は、西のどこか
古い家に後妻に入ったのは
その筋では知られていけど、
『西山王の華』と呼ばれた
娘の行方は、パタリと
途絶えている。


「 でも、後輩ちゃんの同級なら、
オーナーは、後輩ちゃん
にも話してたように、大学の
頃に出会ったって事ですよね。」

ヨミは、少し考えて
今度はハッキリと ハジメに
疑問を投げる。

「ヨミくんはぁ、鋭いなぁ~」

後輩と 彼女が
繋がっていたのは 意外だが、
オーナーも
顔見知りとは。

「 ハジメオーナーの存在は
本当に 計れません、わね。」

ヨミは、
よく分からない顔する
麗しのハーフ組み2人を

そのままに、
ため息をついて、
眼下を見やる。

この後、本当に
彼の華に
会えるだろうか。

楽しみで、何か、ざわめく。

フロアビューは、
夕暮れを越えて
宝石が煌めく 夜景へと
変貌していた。