「ああ、なるほど。たしかに先輩目立つよね」
あの髪色もあり得ないよねえ、と澤本さんがぷくく、と口をおさえて笑う。
「澤本さんは? いつから先輩と?」
「あー、わたしは今年かな。前につき合っていた人と先輩が仲良くていろいろお世話になったの。別れて落ち込んでいたときにも慰めてくれたりとか」
理系校舎の階段をのぼりながら、澤本さんが懐かしむように遠くを見た。
落ち込んでいた澤本さんを慰める先輩を想像すると、眉間を寄せてしまう。見たくないものを見てしまったような、不快感を覚える。
先輩はやさしい。だから、当然のことだ。誰にでもやさしいから、友人が多いのだと思う。
「あ、いたいた。藍、どこにいたの」
目の前から二人組の女子が降りてきて、澤本さんを見るなり話しかけてきた。
「今日合コンあるんだけど人数足りなくてさ。今彼氏いないでしょ」
「いないけど合コンは行かないよ。好きな人いるし」
澤本さんは間髪を容れずはっきりと断る。
好きな人。澤本さんには、好きな人がいる。
「好きな人ならいいじゃん」
「無理だよ。好きな人がいるのに合コンとか。それに合コンって運命感じないし」
運命とは。
澤本さんの発言に、思ったよりもきっぱりはっきりしている子だなと思った。ひとりの女子は「だから無駄だって言ったじゃん」ともうひとりの女子に言って、もうひとりの女子は「わかったわかった」と呆れたように肩をすくめて戻っていった。
「で、なんの話してたっけ?」
女子の背中を見送ってから、藤本さんが私を見る。
「え? なんだっけ。っていうか好きな人がいるって、私聞いちゃったけど」
「え? ああ、さっきの会話? 別にいいよ。隠すようなことでもないし」
隠すようなことじゃない、とはっきり言える彼女を、さっき以上にすごいなと思った。ウソとか、隠しごととか、彼女にはほど遠い。
「すごいね。そんなふうに、はっきり言えるの」
「え? そう? だって好きってそういうことでしょ」
「いや、私はまだそういうの、よくわからないから」
きょとんとされてしまい、苦笑するしかない。恋バナ以外ならなんでも言えるのだけれど。
「えー、じゃあ澤本さんはまだ運命の相手と出会ってないんだね」
「う、運命?」
そういえばさっきもそんなことを言っていた。この年で運命の恋みたいなものを信じているのだろうか。
「みんな、運命の相手がいるんだよ」
へえ、とあっけにとられたような声が出る。
目をキラキラと輝かせている澤本さんは、本気でそう信じているらしい。ちょっと怖いな、この子。いや、まっすぐすぎるだけなのかもしれない。彼女にはウソやごまかしが似合わない。まさしく素直で、一生懸命だ。
「前は失敗したけど、今度は本物だと思うの!」
「今度って、今好きな人のこと?」
あの髪色もあり得ないよねえ、と澤本さんがぷくく、と口をおさえて笑う。
「澤本さんは? いつから先輩と?」
「あー、わたしは今年かな。前につき合っていた人と先輩が仲良くていろいろお世話になったの。別れて落ち込んでいたときにも慰めてくれたりとか」
理系校舎の階段をのぼりながら、澤本さんが懐かしむように遠くを見た。
落ち込んでいた澤本さんを慰める先輩を想像すると、眉間を寄せてしまう。見たくないものを見てしまったような、不快感を覚える。
先輩はやさしい。だから、当然のことだ。誰にでもやさしいから、友人が多いのだと思う。
「あ、いたいた。藍、どこにいたの」
目の前から二人組の女子が降りてきて、澤本さんを見るなり話しかけてきた。
「今日合コンあるんだけど人数足りなくてさ。今彼氏いないでしょ」
「いないけど合コンは行かないよ。好きな人いるし」
澤本さんは間髪を容れずはっきりと断る。
好きな人。澤本さんには、好きな人がいる。
「好きな人ならいいじゃん」
「無理だよ。好きな人がいるのに合コンとか。それに合コンって運命感じないし」
運命とは。
澤本さんの発言に、思ったよりもきっぱりはっきりしている子だなと思った。ひとりの女子は「だから無駄だって言ったじゃん」ともうひとりの女子に言って、もうひとりの女子は「わかったわかった」と呆れたように肩をすくめて戻っていった。
「で、なんの話してたっけ?」
女子の背中を見送ってから、藤本さんが私を見る。
「え? なんだっけ。っていうか好きな人がいるって、私聞いちゃったけど」
「え? ああ、さっきの会話? 別にいいよ。隠すようなことでもないし」
隠すようなことじゃない、とはっきり言える彼女を、さっき以上にすごいなと思った。ウソとか、隠しごととか、彼女にはほど遠い。
「すごいね。そんなふうに、はっきり言えるの」
「え? そう? だって好きってそういうことでしょ」
「いや、私はまだそういうの、よくわからないから」
きょとんとされてしまい、苦笑するしかない。恋バナ以外ならなんでも言えるのだけれど。
「えー、じゃあ澤本さんはまだ運命の相手と出会ってないんだね」
「う、運命?」
そういえばさっきもそんなことを言っていた。この年で運命の恋みたいなものを信じているのだろうか。
「みんな、運命の相手がいるんだよ」
へえ、とあっけにとられたような声が出る。
目をキラキラと輝かせている澤本さんは、本気でそう信じているらしい。ちょっと怖いな、この子。いや、まっすぐすぎるだけなのかもしれない。彼女にはウソやごまかしが似合わない。まさしく素直で、一生懸命だ。
「前は失敗したけど、今度は本物だと思うの!」
「今度って、今好きな人のこと?」