こほんと咳払いをして、背筋を伸ばす。ただ、いまさら取り繕ったところでふたりは納得するはずもない。特に優子は「えー絶対おかしいよ」と疑いのまなざしで私を見続けた。

 けれど、ふたりに不審がられるのも仕方ない。先輩の好きな人は誰なのかずっと気になって考えてしまうし、おまけに勢いで返事に誰なのかを聞いてしまった。あんなこと書くんじゃなかった。絶対変に思われたはずだ。交換日記を回収して私の書いたページを破棄してしまいたい。

 昨日からずっと、そわそわしている。テスト間近だというのに、授業にも身が入らないのだから重傷だ。
 ――『これからも一緒にいるために』

 書かれた文字を思い出すと、寒さが吹き飛ぶくらいあたたかな気持ちに満たされる。それってやっぱり、私のことなのかな。

 ということは。

 もしかして先輩に私の気持ちがばれているってことになるのでは。

 え、なんで。いつから気づかれていたのだろうか。自覚してまだ数日なのに、先輩はその前から察していたのか。

 そう考えるとめちゃくちゃ恥ずかしい。

 ――と、ひとりで狼狽して悶えては深呼吸をして鎮める。

 その繰り返しで精神的に疲労が蓄積している。

 先輩は交換日記の返事で、好きな人の名前を教えてくれるだろうか。

 私の名前が書かれることを、私は期待している。

 でも、もしも別の人だったらと思うと、胸が張り裂けそうになる。

 ただ、傷は浅く済むだろう。今ならまだ、私はこの気持ちに蓋をして忘れられるはずだ。

「ちょっと生徒会室行ってくるね」
「最近毎日だねー」

 立ち上がると優子に言われてしまい、「まあね」と曖昧な返事をして逃げるように教室を出る。先輩との交換日記を受け取るためにこうしてウソばかりついていることが、後ろめたい。いつかばれてしまうのではないかと、怖くなる。

 いつまでこのウソを続けるのか。

 ……先輩の告白が終わるまでだ。

 本当に、そうなのだろうか。

 ふと疑問が浮かんだとき、どこかから音楽が聞こえてくることに気がついた。

 かすかに届くその音色を探すと、窓の外に先輩がいるのに気がついた。中庭のベンチでひとり、ギターを抱えて座っている。太陽の光が先輩の髪の毛に注いでいて、きらきらと輝いていた。まるでスポットライトを浴びているみたいに、先輩のまわりがわたしの視界から消える。

 外はまだ真冬だというのに、先輩を見ていると春だと錯覚してしまいそうだ。コートもマフラーも身につけていないのでそう見えるのかもしれない。

 先輩はいつも薄着だ。また風邪を引いたらどうするのだろう。

「なにしてるんですか、先輩」

 靴箱に向かわず、上靴のまま中庭に出てギターを弾いている先輩に話しかける。先輩は驚いた様子を見せず、手を止めてゆっくりと私を見上げた。