関谷くん以外の元カレとは、一切の連絡を絶っている。同じ高校だとすれ違うことはあるけれど、たいていの人はなかったものとしてお互いに無視をしている。元カレと友だちになる人もいるが、私は性に合わないのだ。未練があるわけではなく、煩わしいだけ。

 ただ、同じ生徒会仲間の関谷くんとはそうもいかない。ぎくしゃくしてしまえばほかの人に気を遣わせてしまう。なので、友だちに戻ろう、と私から言った。関谷くんもほっとしたようにそれを受け入れてくれた。

 生徒会が終わるまで、の予定だった。生徒会の任期を終えれば、関係は終わるはずだった。二年目は辞退しようと思っていた。けれど。

 ――『松本、副会長してくれない?』

 そう言ってきたのは関谷くんだ。

 ああ、彼にとって私は完全に友だち、仲間、というポジションになったらしい。それはありがたいけれど、面倒くさい。相手がどう思っていようと、彼のことを今はなんとも思っていなくても、私にとって元カレは元カレで、友だちとは違う。

 それでも引き受けたのは、いい言い訳が思いつかなかったからだ。いや、断ると私意識していると思われそうで、それがいやだったというのもある。実はまだ好きなんじゃ、とか勘違いされたら最悪だ。

「でもやっぱ、気を遣うわ」

 誰にも聞こえないくらいの音量でつぶやきながら歩きはじめる。

 相手がどう思っていようと私が無理。おまけに、たまに「会長とより戻ったの?」なんて言われることもある。

 塾が忙しいとか(通ってないけど)、部活があるとか(入部してないけど)、なんかこう適当な言い訳を並べて断ればよかった。

「……やめよ」

 今更うだうだ悩んだところで無意味だ。

 そんなことより、今は大事なことがある、とポケットからノートを取り出した。一刻も早くこれをどうするのかを決めなければ。

 落ち着いて考えようと思い、突き当たりの階段を目指す。放課後ということもあり、あまり人が通ることはないだろう。

 そろそろ日が沈む時間ということもあり、廊下は暗くて寒い。目的地の階段に腰を下ろすと、お尻から冷気が体に伝わってくる。コートを着ていても背中が冷える。うう、とうめき声を上げながら、ノートを開いた。

 見るだけで恥ずかしくなるポエムは、当然、今朝と変わらない。他のページにも同じようなポエムが書かれているのだろうか、と思ったけれど、さすがにそれを見るわけにはいかない。今はほかのポエムよりも持ち主のことだ。誘惑を振り切って、一ページ目をじっと見つめる。

 文字を見る限り、男子っぽい。けれど、殴り書きのような文字だからそう思うだけかもしれない。僕、という一人称ではあるけれどそれは判断材料にはならないだろう。

 にしても。あらためてみると本当にすごい文章だ。

「愛しい人、か」