「この色にしてから江里乃ちゃんと仲良くなれたし。黒髪のときは、俺のこと毛虫を見るみたいな目で見てたもんな」
「……そこまでは思ってないですよ」

 たしかに今みたいな関係になったのは先輩が髪の毛を染めてきた日だった。ついでにポエムノートを拾った日だ。

「先輩が初対面で窓からやってきたから、なにをするのかと警戒してただけです」

「俺はその前から江里乃ちゃんのこと知ってたけどな。生徒会の選挙とか、たまに廊下を走っている生徒に注意したりしてるの見かけたし」

 そんなところを見られていたのかと思うと、ちょっと恥ずかしい。

「自分にも他人にも厳しそうな子だなって思ってた」
「よく言われますね」

 自分ではそんなつもりはないけれど。みんながそう言うならきっとそうなのだろうとも思っている。特に先輩に〝気持ちを添える〟ことに気づいた今では、厳しく思われていたのも納得だ。

 付き合っていた人に言われたトリプルパンチも、原因がわかった。

「もっと前からこの色だったら、去年の夏に一緒に山に行けたかもしれねえのにな。そしたらもっと江里乃ちゃんと一緒に過ごせたかも」

 それは、どういう意味なのか。

 反応を返せずぽかんとしてしまう。その瞬間、先輩の顔が引き締まり真剣な表情に変わった。その瞬間、先輩の手が私の肩に回される。

「わ!」

 ぐいっと引き寄せられ、先輩の胸に倒れ込むように抱きしめられた。

 な、なになになに? パニックで声が出ない。うわああ、と心の中で叫び声を上げると、背後を車が通り過ぎるエンジン音が聞こえた。

「あぶね、大丈夫か?」
「あ、は、はい。ありがとうございます」

 なにを、勘違いしたんだろう私。抱きしめられたかと思うとか先輩はバカみたいに突っ立っていた私を、車から守ってくれただけだ。羞恥で今すぐコンクリートを掘りたい!

 ぐちゃぐちゃになった気持ちを静めながら、歩きだした先輩の背中についていく。

「やっぱり、ひとりよりふたりのほうがいいよな」
「なんですか急に。でも、先輩はいつも誰かと一緒にいるじゃないですか」

 ひとりでいる姿を見るほうが珍しいくらいだ。

「ひとりでいるとさびしいから、誰かと一緒にいたくなるだろ?」

 先輩は、振り返らずに前を見たまま答えた。

「でも、結局ひとりになるよな。いつかはさ」
「そう、ですね」

 四六時中誰かと過ごすのは難しい。もちろんそうでない人もいるだろうけれど、少なくとも先輩の場合は、ひとりで過ごさなくちゃいけない時間が必ずある。

「そのさびしさをどうやってなくせばいいと思う?」
「……なくならないんじゃないですか?」

 と、口にしてしまったと思った。元も子もない話になってしまう。

 でも――ほかに言葉は思い浮かばなかった。