先輩に想われている人は、どんな人なのだろう。あのサイドテールの女子だろうか。それとも別の人だろうか。

 誰にでもやさしい先輩が特別な感情を抱いているのだから、相手はきっと素敵な人なのだろう。

 私なんかよりもずっと。

 比較すると、泣きたくなる。羨ましくて、手を伸ばしたくなる。相手を想像なんてしたくないのに、イメージを膨らませ、自分との違いをひとつひとつ確認する。知らないのだから無意味なことだとわかっているのに。

 でも、それでもいい。

 それでも、先輩がさびしさを忘れて過ごせていることを、願う。

 感謝と、願い。

 この想いが、どういう名前のものなのか、わかっているけれど気づかないふりをして手を動かし続けた。気づいたところで、なんの期待もできない、惨めでむなしい感情に支配されるだけなのだから。

 咲きかけのつぼみでも、水を与えなければ朽ちていくはずだ。



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   感謝と願いって ステキですね
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   そんなふうに想い想われたいです
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「ま、間に合ったあ……」

 ぜえぜえと息を切らせながら教室に入る。いつもは誰もいないのに、今日はほとんどのクラスメイトがそろっている。

 それも当然で、今はチャイムが鳴る一分前だ。

「おはよ、珍しいね江里乃がギリギリなんて」
「希美、おはよ。ね、寝坊した……めちゃくちゃ焦ったよー、お父さんに車で駅まで送ってもらってなんとか、って感じ」

 よろよろと席に座り、呼吸を整える。

 まさか私がいつも家を出る時間に目を覚ますことになるとは。時間を見た瞬間叫び声を上げてしまった。父親が車通勤だったので、無理を言って普段より早めに家を出てもらってなんとかという感じだ。

「江里乃が寝坊って。さてはドラマ止められなかったんでしょー」
「まあ、そんな感じ。ついつい、ね」

 ははは、と乾いた笑いを優子に返す。

 交換日記の返事を書いて、さあ寝よう、とベッドに入ったけれど布団の中で先輩の想い人のことばかりを考えてしまい、これではだめだと刺繍をはじめた。睡魔に襲われるまで手を動かし続けないと眠ることができなかった。おかげで就寝は朝方だ。

 なんでこんならしくないことをしてしまったのか。

 それに、交換日記の返事もあんなこっぱずかしいことを書いてしまった。遅刻ギリギリだったせいで返事を靴箱に入れることはできなかったけれど、そのぶん、あの返事を消して別の内容を吟味しよう。