「あ、あたしだってやればできるんです!」

 資料を握りつぶしそうな勢いで手に力を込めた佐々木さんは、その言葉を自分に言い聞かせているようだった。

 そうさせてしまったのは、私だ。

「ごめんね。その、言葉足らずで、厳しい言い方になっちゃって」

 佐々木さんに近づき、項垂れている彼女の手を取った。

「謝るだけじゃなくて、これからどうするのかを考えてほしかったの。じゃないと、私が言ったからそうする、になってしまうから」

 月曜日、佐々木さんに言った言葉を思い出しながら、気持ちを添えてもう一度、あらためて伝える。

「いつまでも同じことを繰り返していたら、えっと、もし佐々木さんが来年も生徒会を続けていたときに、その、困るかもしれないと思って」

 いつもならもっとはっきり口にできるのにしどろもどろになってしまい、目線が生徒会室をさまよう。佐々木さんや関谷くんの顔を見ることができない。

 ――気持ちを言葉にするのって、こんなに、難しくて、勇気がいるんだ。

 自分の素直な気持ちだからこそ、相手の反応が気になる。手に汗握りながら、それでも、と自分を叱咤して言葉を続ける。

「私の仕事をお願いしないって言ったのも、怒ってたんじゃなくてそうすることでどうすればいいのか、気づくこともあるんじゃないかと、思ったから」

 と、口にして「いや、本音を言えば怒ってたけど」と訂正する。相手に寄り添うやさしい言葉だけでは、きっと伝わらない。

「私は、自分の言ったことが間違っているとは思ってない。けど、言い方が悪かったと、思ってる。それに、配慮が足りなくて、ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げて、ほかに言うべきことはあっただろうかと頭の中でぐるぐると考える。そのあいだ、ふたりからの反応は返ってこなかった。

 しんと静まった生徒会室に、廊下からの喧噪がかすかに響く。誰かの足音に笑い声、それらが遠ざかっていくのを待つように、誰も口を開かなかった。

「すみません」

 その沈黙を破ったのは、佐々木さんだった。

 ゆっくりと顔を上げて彼女と視線を合わせる。

「あたし、先輩の言っていることまんま受け取って、むかついてました」
「あの、その、ごめんね」

 言葉を添えたあとだと、自分の言葉がどれだけ言葉足らずで厳しかったかがわかる。私は端的に言いすぎている。

「でも、本当は先輩がそう思ってくれていることも気づいていたんです。あたしのせいで先輩が困っていることだって、わかっていたのに、先輩ならなんとかするからまあいいかって、大丈夫だろうって」

 いつも元気な佐々木さんがしゅんとして肩を落としていた。

「あの日、怒って帰っちゃったから、だから、呆れられたんだって思って」
「え? 帰ってないよ? 帰ったのはみんなでしょ」

 戻ってきたら誰もいなかった日のことだろう。