……今朝拾ったノート、どうしようか。
放課後になってもいい返却方法が浮かばず、ずっと私のポケットに入ったままだ。人のものを持っている状況が落ち着かない。早くなんとかしなければ。
「上の空だな、松本」
「え、あ、いやそんなことは」
はっとして顔を上げると、生徒会長である関谷くんが苦笑する。
「疲れが溜まってるんじゃないか?」
「そうかも。でも大丈夫」
三学期に入ると、生徒会は忙しくなる。
高校入試もあるし、合格発表、入学説明会。卒業式に入学式。イベントが盛りだくさんだ。先生たちの準備を手伝ったり、生徒からの協力を募り指示したり、雑用や体力仕事、いろんなことを任される。
「今日はそんなに急ぎの仕事もないし、疲れてるなら帰っても大丈夫だよ」
「でも」
「メリハリは大事だよ。なにより松本が倒れると困るし、おれが」
はは、と笑って関谷くんが言った。
やることはまだあるけれど、たしかに今日は少し落ち着いている。生徒会室に私たち以外の役員がいないのも、そういう理由からだ。先に終わらせておくほうが後々楽になるけれど、お言葉に甘えようかな、とプリントをまとめた。
それに、ふたりきりなのも正直居心地が悪い。
「じゃあ、ごめんね」
「お疲れ様」
コートを羽織り、荷物をまとめて挨拶をし生徒会室を出る。そして、廊下でふうーっと息を吐きだした。
関谷くんは、きっとなんとも思っていないんだろうなあ。そう思うと、自分だけが意識していることを悔しく思う。
私と彼、関谷くんは、去年一時期付き合っていた。
出会いは生徒会だ。彼も私と同じように去年生徒会選挙で当選し、会計を務めていた。お互い小学校時代から優等生ポジションで過ごしてきたことと、読書が、特に海外ミステリが好きという共通点もあり、彼とは気があった。
だから、去年告白されたとき、私は迷うことなく受け入れた。彼となら、もしかしたらうまくいくんじゃないか、と。
一年の二学期だった。そしてその一ヶ月後、たった一ヶ月後だ。
『かわいげがない』『キツイ』『おれのこと好きなのかわからない』
トリプルパンチでフラれた。
いつもこうだ。中学時代に付き合った人からも、高校で付き合った関谷くん以外の彼氏にも、いつだって同じようなセリフでフラれる。告白してくるのは毎回相手からだというのに。
ただ、その中で関谷くんだけが特別なのは、今も友人という関係だからだ。