後輩を叱るのが私で、フォローするのが彼女。そういう役割分担もあったのかもしれない。私はそうだと思っていた。

 でも、違ったのだ。

「私が、邪魔だったみたいで」

 ある日、体育館で敵意を向けた仲間に囲まれた。

 ――『江里乃にはついていけない』
 ――『みんなも自分と同じだと思わないでほしい』
 ――『江里乃のせいで、やめたいって言い出す子もいるの』
 ――『もう少し人の気持ちを考えてほしい』

 彼女を代表に、みんなからの苦情を聞かされた。私は厳しすぎる、怖い、やさし さがない、という内容に正直辟易した。そんなことを言って甘えて、怠けて、どうするんだと。

 強豪校なわけじゃないからといって、負けてもいいかのように練習するくらいなら、しな いほうがましだ。昨日までできなかったレシーブをできるようになりたいと思わないのか、次の大会で 一試合でも二試合でも長くプレイをしたくないのか。

 私はそんな彼女たちの気持ちのほうがわからない。

 ――『江里乃は、ガラスみたいな人だね』
 ――『冷たくて、かたくて。向こう側にいる人のことが見えていても、感じることができないんだよ』

 今まで笑っていた彼女の冷たい視線ととげとげしい声を、私ははっきりと覚えている。それは、思い出すだけでも凍りついてしまいそうになる。

「それで、部活を、やめることになったんです」

 じゃないと、みんな部活に来ないと言われたからだ。顧問の先生にそう言ったらしく、次の日の部活は、私以外の誰も来ていなかった。体育館に一人たたずむ私に、顧問の先生が教えてくれた。

 気がつけば私の視線はずっと足下に落ちていた。歩道を歩く自分の靴先を見つめていると、バランスを崩しそうになる。地面からの冷気が私の体に染みこんできて、体温をぐんぐん下げて感覚を奪っていく。

 先輩のぬくもりも、見失いそうになる。

「正論は、疎ましがられるから」
「違うよ」

 自嘲気味に笑ってつぶやくと、かぶせるように先輩が言った。

 いつもの明るい声じゃなく、厳しい声色に体がびくりと反応する。反射的に身構えて体を引くと、先輩の手に込められた力がそれを引き留めた。

 恐る恐る顔を上げると、先輩の真剣なまなざしが私を見ている。

「前にも言っただろ。正論は正しい」

 関谷くんに言ってくれた先輩の言葉。

 ――『正論は、正しい論だから、正しいに決まってるだろ』

 私もそう信じている。けれど、じゃあどうして毎回同じことを私は繰り返してしまうのか。どうして同じように責められるのか。

「正論に逃げてんじゃないか?」
「……な、にそれ」

 どうして私が逃げなくちゃいけないのか。どうして先輩にまでそんなことを言われているのか。突然、広い海原に放り出されたような、失望感を覚える。