様々なデザインのギターを眺めていると、先輩がその中の一台を手に取った。薄いオレンジ色のような、ピンク色のような、先輩には意外な色に思えた。でも、そばにあった椅子に腰を下ろしてポロンと弦を鳴らす姿から、不思議な色が広がったように感じた。

 以前は若葉のような色に見えたのに。

 今は、このオレンジのようなピンクのようなやさしげな色に見える。

「リクエストある?」
「え? えーっと、なんだろ」

 突然の質問に頭がうまく回らない。先輩はそれを気にすることなく「じゃあ江里乃ちゃんのイメージで」と言って、軽やかな音楽を奏でた。

 ピックを上下に動かす右手と、様々な形を作り出して弦を押さえる左手が、魔法のように見える。

「どう?」
「……なんの曲ですか、それ」
「俺のオリジナル」

 即興で弾いたのだろうか。すごいです、と答えると先輩はほっとしたように頬を緩ませて、同じ曲をもう一度弾く。

「江里乃ちゃんの、真面目で、実直で、ウソがつけない感じ」

 先輩の中の私は、そんなイメージらしい。それはけっして、間違いではないだろう。いろんな人に今まで散々言われてきた。けれど、胸にひっかかる。

 そうなんですね、と曖昧な返事をしながら、鞄の中にある交換日記のことが頭をかすめる。それに気づかないふりをして、そんな感じなんですね、ともう一度よく似た返事を繰り返した。

 好きな人に贈る曲は、どんな感じなのだろう。

 聴いてみたいと思う。けれど、聴きたくないとも思う。

 先輩の想いが込められたものを、私は受け止めたくない。だってそれは、私ではない誰かへのものだから。そう思うのは、至って普通のはずだ。そうじゃないといけない。

 けれど、先輩が弾く姿から目をそらすことができなかった。

 きっと、絵を描く姿もこんなふうに、人を引きつけるに違いない。

「じゃ、行くか」

 ひとしきり弾いたことに満足したのか、先輩が立ち上がる。熱心に弾いてほかのギターも見ていたので買うのかと思ったけれど、値段を見て簡単に買えないものだと納得した。家にあったギターは、去年の夏休みにバイトをして買ったものらしい。ファミリーレストランのキッチンだったらしく、その姿も見てみたかったなと思った。きっと、また違う先輩がそこにはいただろう。

 そのあと、先輩は「スカッとするか」と言ってゲームセンターに私を連れて行った。生まれて初めてカートレースをし、シューティングをし、パンチングマシンにも触れた。どれもこれも当然結果はひどい。

 先輩は、それをバカにしたように笑った。下手くそだなあと言われて悔しくて何度も挑戦したけれど、結局一度もまともなスコアを取れなかった。

 私は初心者なのにまったく手を抜かない先輩もどうかと思う。