なぜか目をそらして、答える。けれど、それはあまりに薄っぺらく言葉が舌の上を上滑りしているだけに感じた。どこにもとどまらない、気持ちのない言葉。
それが先輩に伝わりませんように。
その思いが神様にでも通じたのか、車内に停車駅のアナウンスが流れて、電車の速度が落ちていく。
駅についてドアが開くと、車内の人が一斉にホームに降りる。その波にのって階段を上がり改札を出る。すぐそばが地下街になっていることもあり、かなりの人が行き交っている。平日にこの駅に来ることはほとんどないけれど、制服姿の学生たちも結構多い。このあたりにある学校の生徒たちだろうか。
「いまさらだけど体調は?」
「本当にいまさらですけど、大丈夫です」
「じゃあ、ぶらぶら歩いて甘いもの食べて、しゃべって笑って過ごすか」
結局それってなにも考えていないのでは。でも。
「いいですね」
そういう時間の使いかたもたまにはいいかもしれない。ひとりじゃないから、隣にいるのは先輩だから、そう思う。
そうと決まれば地上に出ようと先輩は言って、人混みをかき分けながら階段を目指す。一番近くの階段をあがると、大通り沿いだったこともあり、冷たい風と車のエンジン音、そして喧噪が襲ってくる。寒さから逃げるように横道に入り、商店街の中を歩き出した。人が多いことと屋根があることにくわえて、左右にある店からあたたかい空気が時折やってくる。
どこに行こっかなあ、と顎に手を当てて悩む先輩のあとをついて行くと、前から来た人と肩がぶつかる。すみませんとお互いに頭を下げて再び歩き出すと、右手がふわりと持ち上がった。
「じゃあ俺のエスコートで」
私の手を取った先輩が、振り返る。
今までつき合った彼氏と、こうして手をつないで歩いたことは何度かある。初めてのことじゃない。なのに。
――心臓が、壊れそうだ。
触れる手から、先輩にも その振動が伝わっているかもしれない。だって、まわりの雑音が耳に入ってこないほど、心音が鼓膜を震わせている。
大きくて、ちょっと骨張っていて、長い指先。今まで感じたことのない違和感が私の神経をそこに集中させてしまう。そこだけが、敏感になっていて、ほかが麻痺してしまう。
無理だ。よくわかんないけど、無理。なにがとかわかんないけど、無理。
「あ、ここ入っていいか」
右手にあった楽器店で、先輩が目を輝かせた。
無理、なのに、先輩のご機嫌そうな様子にそれすらも心地よく思えてくるんだから、今の私はおかしい。
あまり広くはない店内の入り口には電子ピアノが数台が並んでいた。その奥に進むと、ギターが所狭しと並べられている。ベースもあるけれど、圧倒的にギターが多いのはなぜなのだろうか。
それが先輩に伝わりませんように。
その思いが神様にでも通じたのか、車内に停車駅のアナウンスが流れて、電車の速度が落ちていく。
駅についてドアが開くと、車内の人が一斉にホームに降りる。その波にのって階段を上がり改札を出る。すぐそばが地下街になっていることもあり、かなりの人が行き交っている。平日にこの駅に来ることはほとんどないけれど、制服姿の学生たちも結構多い。このあたりにある学校の生徒たちだろうか。
「いまさらだけど体調は?」
「本当にいまさらですけど、大丈夫です」
「じゃあ、ぶらぶら歩いて甘いもの食べて、しゃべって笑って過ごすか」
結局それってなにも考えていないのでは。でも。
「いいですね」
そういう時間の使いかたもたまにはいいかもしれない。ひとりじゃないから、隣にいるのは先輩だから、そう思う。
そうと決まれば地上に出ようと先輩は言って、人混みをかき分けながら階段を目指す。一番近くの階段をあがると、大通り沿いだったこともあり、冷たい風と車のエンジン音、そして喧噪が襲ってくる。寒さから逃げるように横道に入り、商店街の中を歩き出した。人が多いことと屋根があることにくわえて、左右にある店からあたたかい空気が時折やってくる。
どこに行こっかなあ、と顎に手を当てて悩む先輩のあとをついて行くと、前から来た人と肩がぶつかる。すみませんとお互いに頭を下げて再び歩き出すと、右手がふわりと持ち上がった。
「じゃあ俺のエスコートで」
私の手を取った先輩が、振り返る。
今までつき合った彼氏と、こうして手をつないで歩いたことは何度かある。初めてのことじゃない。なのに。
――心臓が、壊れそうだ。
触れる手から、先輩にも その振動が伝わっているかもしれない。だって、まわりの雑音が耳に入ってこないほど、心音が鼓膜を震わせている。
大きくて、ちょっと骨張っていて、長い指先。今まで感じたことのない違和感が私の神経をそこに集中させてしまう。そこだけが、敏感になっていて、ほかが麻痺してしまう。
無理だ。よくわかんないけど、無理。なにがとかわかんないけど、無理。
「あ、ここ入っていいか」
右手にあった楽器店で、先輩が目を輝かせた。
無理、なのに、先輩のご機嫌そうな様子にそれすらも心地よく思えてくるんだから、今の私はおかしい。
あまり広くはない店内の入り口には電子ピアノが数台が並んでいた。その奥に進むと、ギターが所狭しと並べられている。ベースもあるけれど、圧倒的にギターが多いのはなぜなのだろうか。