とけらけら笑う声が聞こえてくる。
「すごいね……この前まで真っ黒だったよね、たしか」
ふわあ、と希美が声をもらす。
「卒業前だからって羽目外しすぎでしょ」
「でも、あの先輩ももうすぐいなくなるんだと思うと、さびしくなるね」
そう、かなあ。静かになって学校が穏やかになるからいいような。
先生に怒られている彼――二ノ宮静は、この学校の問題児だ。学年はひとつ上の三年生。接点がなくとも、彼のことは全校生徒が知っている。
生徒会は、とにかく彼に迷惑をかけられた。
二ノ宮先輩は人を惹きつける顔立ちをしているけれど、誰もが認めるイケメン、というわけではない。奥二重で、左右の目の大きさは違うし、はっきりした顔立ちをしているわけでもない。
身長はそこそこ高く、スタイルもいいけれど。簡単に言うと雰囲気イケメンだ。以前は肩につくくらい長い黒髪ヘアで、妙な色気もあった。黙っていれば大人っぽく落ち着きがあるように見える。けれど、実際の彼は真逆だ。とにかく明るく、誰にでも親しげに話しかける。そのギャップも彼の魅力のひとつだろう。
ただ、それだけで迷惑をかけられてきたわけではない。とにかく、二ノ宮先輩は騒ぎを起こすのだ。
文化祭では校門前でゲリラライブをはじめ、校内外から男女問わず大勢の人が集まりパニック状態になった。体育祭では全種目に飛び入り出場するというめちゃくちゃなことをするし、二階の窓から飛び降りたり、遅刻しそうだからとバイクで登校してきたりしたこともある。立ち入り禁止の屋上に忍び込み、手作りだという垂れ幕を下げたこともあった。
そのたびに生徒会がどれだけ苦労させられたか。
場を鎮めて、先生たちに事情を説明し、ときにはそれを資料にまとめて先生に提出したり、謝ったり。思い出すと目がうつろになる。
そんな彼が、一ヶ月半後にある卒業式でなにをしでかすのかと考えるとぞっとする。今すぐ生徒会をやめてしまいたいくらいだ。なにをするのか想像もつかない。なにがやっかいって、彼の場合〝目立ちたい〟とか〝悪いことをしよう〟だなんて考えは一切ないのだ。
やりたいからやるだけ。
だから、予測がつかない。
ルールも常識も通用しない、自由人。
今まで何度か言葉を交わしたことがある。そのたびに思う。この人と私は生まれた星が違う、と。
三階から地上にいる二ノ宮先輩を見下ろしながら、今回はなにがあってあの髪色にしたのだろうかと考える。きっと、私には想像もつかない理由なのだろう。
一月の寒空ではあるけれど、雲ひとつないきれいな青空の下にいる彼に、太陽の光が注いでいる。カフェオレ色の髪の毛が、日差しの下で銀色に輝いて見えた。
そこだけが、まるで違う世界みたいだ。
「……きれいだな」
「え? なんて?」
私の独り言を拾った希美に、なんでもない、と首を左右に振り「ほら、先生来るよ、みんな」と窓を閉める。そのとき、ふと空を仰いだ二ノ宮先輩と目が合った、ような気がした。
「すごいね……この前まで真っ黒だったよね、たしか」
ふわあ、と希美が声をもらす。
「卒業前だからって羽目外しすぎでしょ」
「でも、あの先輩ももうすぐいなくなるんだと思うと、さびしくなるね」
そう、かなあ。静かになって学校が穏やかになるからいいような。
先生に怒られている彼――二ノ宮静は、この学校の問題児だ。学年はひとつ上の三年生。接点がなくとも、彼のことは全校生徒が知っている。
生徒会は、とにかく彼に迷惑をかけられた。
二ノ宮先輩は人を惹きつける顔立ちをしているけれど、誰もが認めるイケメン、というわけではない。奥二重で、左右の目の大きさは違うし、はっきりした顔立ちをしているわけでもない。
身長はそこそこ高く、スタイルもいいけれど。簡単に言うと雰囲気イケメンだ。以前は肩につくくらい長い黒髪ヘアで、妙な色気もあった。黙っていれば大人っぽく落ち着きがあるように見える。けれど、実際の彼は真逆だ。とにかく明るく、誰にでも親しげに話しかける。そのギャップも彼の魅力のひとつだろう。
ただ、それだけで迷惑をかけられてきたわけではない。とにかく、二ノ宮先輩は騒ぎを起こすのだ。
文化祭では校門前でゲリラライブをはじめ、校内外から男女問わず大勢の人が集まりパニック状態になった。体育祭では全種目に飛び入り出場するというめちゃくちゃなことをするし、二階の窓から飛び降りたり、遅刻しそうだからとバイクで登校してきたりしたこともある。立ち入り禁止の屋上に忍び込み、手作りだという垂れ幕を下げたこともあった。
そのたびに生徒会がどれだけ苦労させられたか。
場を鎮めて、先生たちに事情を説明し、ときにはそれを資料にまとめて先生に提出したり、謝ったり。思い出すと目がうつろになる。
そんな彼が、一ヶ月半後にある卒業式でなにをしでかすのかと考えるとぞっとする。今すぐ生徒会をやめてしまいたいくらいだ。なにをするのか想像もつかない。なにがやっかいって、彼の場合〝目立ちたい〟とか〝悪いことをしよう〟だなんて考えは一切ないのだ。
やりたいからやるだけ。
だから、予測がつかない。
ルールも常識も通用しない、自由人。
今まで何度か言葉を交わしたことがある。そのたびに思う。この人と私は生まれた星が違う、と。
三階から地上にいる二ノ宮先輩を見下ろしながら、今回はなにがあってあの髪色にしたのだろうかと考える。きっと、私には想像もつかない理由なのだろう。
一月の寒空ではあるけれど、雲ひとつないきれいな青空の下にいる彼に、太陽の光が注いでいる。カフェオレ色の髪の毛が、日差しの下で銀色に輝いて見えた。
そこだけが、まるで違う世界みたいだ。
「……きれいだな」
「え? なんて?」
私の独り言を拾った希美に、なんでもない、と首を左右に振り「ほら、先生来るよ、みんな」と窓を閉める。そのとき、ふと空を仰いだ二ノ宮先輩と目が合った、ような気がした。