がっくりと肩を落としそうになったもののそれをこらえて笑った。

 ふたりには彼氏がいるのだから、約束があるのは当たり前だ。でも、寒いこの季節、心までしょぼくれているときにひとりで過ごすのかと思うと、恐怖を感じた。なにか、明るいことを考えないと。ずるずると過去に引きずられてしまう。

 帰ったら刺繍をしよう。時間があるので凝ったものを作ってもいい。ベッドカバーを作ろうか。ブローチもいい。必死に楽しいことを考える。

「っていうか江里乃も彼氏作ったらいいんだよ。関谷くんとかさあ」

 優子が「ねー」と希美に相づちを求めた。

「さっきもみんなで実は復縁のお誘いじゃないかって言ってたんだよねえ」
「いや、今はもう友だち、だし。そんなんじゃないよ」

 なんでそんなことが話題になるのか。

「今も仲いいじゃんー。結構噂だよ。お似合いだし」
「いや、ないよ」

 別れて親しくしているとそんなふうにも思われるのか。好きで友だちでいるわけでもないのに。生徒会長として信頼できる人ではあるけれど、今の私にとってそれ以上の関係も想いもない相手だ。

 なのに。

「でも、生徒会長と副会長っていいじゃん」
「いや、ないから」

 本当に恋愛の話って面倒くさい。げんなりする。もう終わりにしてほしい。

「でもさあ」
「違うって言ってるじゃない、しつこいな!」

 声にしてから、はっとする。
 キツく言いすぎた。完全に八つ当たりだ。

 優子はぽかんと口をあけて固まっていて、クラスの空気もピンと張り詰めたのがわかった。視線が私に集中する。

「なんで、そんな言い方するのよー。そんなに怒らなくてもいいじゃん」

 間を空けてから、優子がむうっと頬を膨らませて言った。

「あ、いや、つい」
「あんまり言われると、関谷くんと話すの気まずくなるもんね」

 謝ったほうがいいのに、すんなりと謝罪が口にできない。それをわかっていたのか、希美があいだに入って、やんわりと優子をなだめてくれた。

「優子も、江里乃にいい人がいいなって思ったんでしょ」
「だってあたしも希美も彼氏がいて、江里乃がひとりになっちゃうからさー」

 別にそんなの望んでいないのに……。でも、優子らしい気の遣いかたに、肩の力がふっと抜ける。教室の雰囲気も少し和らいだのがわかった。

 しょんぼりしている優子に今度はちゃんと「ごめんね」と言葉にする。

「ごめん、ありがと。でも、本当に関谷くんとはなんでもないし、今彼氏が欲しいとかは思ってないから。でも、ありがと」
「ならいいけど。あたしも、しつこかったかも。ごめん」

 優子は口をとがらせて子どものようにそっぽを向いて「江里乃怒ると怖いんだもん」と言葉を付け足す。はっきりと言われてしまい苦笑するしかない。ごめんごめんと謝りながら優子の頭を撫でる。