このままずるずると落ち込んでいても仕方がない。私は生徒会副会長なのだから。与えられたことに集中しないといけない。昨日すべきことは誰もいなくなった生徒会室で終わらせた。

 そして次にすべきことは、話をすることだ。休み時間になったら関谷くんのところに行こう。まだまだ生徒会には仕事がある。わだかまりを残したままでは今後に支障が出る。

 大丈夫、大丈夫。自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせた。


 一時間目の授業が終わったのは、チャイムが鳴って数分後だった。急いで関谷くんのところに行かなくちゃと立ち上がると、ドアから関谷くんが顔を出す。慌てて駆け寄ると、彼は「昨日のことで話をしなきゃって思って」と言った。

「私も関谷くんのところに行こうと思ってた」

 会話をしながら廊下のすみにふたりで移動する。

「あの」
「昨日も言ったように、松本は正しいよ。佐々木さんが悪い。でも、正しくてもそれが相手にとっては傷つけることになるんだ」

 話し始めようとした私の言葉を、関谷くんが遮った。

 言われた言葉に思わず立ち止まると、関谷くんも足を止めて振り返る。

「松本が悪いわけじゃないのは、わかってる」

 だったらどうして、そんな哀れむような目をするのか。

「ただ、佐々木さんはちょっと弱いから」

 弱いからなんなのか。間違っていることを指摘してはいけないのか。

「なにが、言いたいの?」

 回りくどい、私に気を遣った物言いに口調が冷たくなってしまった。

「あとは残りのメンバーでなんとかなると思う。だから」

 だから。

「松本はしばらく休んでくれても、大丈夫だよ」

 それは、私がいると場が乱れるから、来ないでほしいってことだろうか。体よく邪魔者を排除しようとしているのか。

 結局、同じだ。いつだってこうなるんだ。

 外の風よりも冷たい風が私の体の中で吹き荒れて、震えそうになる。足腰に力を入れて踏ん張り、奥歯を噛んで、声を絞り出す。ゆっくりと。感情を殺して。

「わかった」

 短く答えて、踵を返し教室に戻った。

 床を踏み潰すように力強く前に進む。決して立ち止まって振り返っちゃいけない。

「あ、戻ってきたー」

 優子の明るい声に、こわばっていた体と表情が一瞬ほぐれる。

「もう終わったの?」
「あ、うん、生徒会の話で。ちょっと落ち着いたから、しばらくゆっくりできそうだねって、話」

 真実を隠す私は、なんて見栄っ張りなのか。かっこ悪くて優子の目を見て答えることができなかった。ただ、声色だけは暗くならないように必死に取り繕う。

「そうだ、希美。今日一緒に帰ろうよ。優子もさ」
「あ、ごめん、今日は瀬戸山くんと……」
「あたしも今日はヨネと出かけるんだよねえ」
「そっか。まあ急だもんね」