「自分にはできないからって、諦めて怠けてるだけじゃない」
「そ、そんなつもりじゃ……!」

 わ、と効果音が聞こえるほど涙をあふれさせた佐々木さんを、関谷くんが慰めるように肩を抱き寄せた。

 そうやって甘やかすから、と思ったものの今はどうでもいい。かける言葉を探すのも面倒なので、そのまま生徒会室を出て桑野先生を探しに出かけた。

 用事を済ませて生徒会室に戻ると、そこには誰もいなかった。



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   できあがったら聞いてくれる?
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   友だちにも聞かせて反応見ようと思っててさ
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   ななちゃんの意見も聞かせてほしい
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   もちろんお世辞のない意見を!
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「いった!」

 誰もいない教室で、ひとり声を上げる。親指からはぷっくりと赤い血が出てきて、それを口に含んだ。刺繍針をこんなに思い切り刺してしまうのは久々だ。

 無心で進めたおかげで、生地の半分以上の刺繍が終わった。それを机に置いて、ポケットから交換日記を取り出す。

 これを受け取ったのは昨日の放課後だった。けれど、私はいまだに返事が書けないでいる。今もノートを開いたものの、言葉が一文字も浮かんでこない。

 ずっと、ひとりぼっちの生徒会室の光景ばかりが脳裏に浮かぶ。そして、

 ――『ガラスみたいな人だね』

 中学三年に進級したばかりの、部活で言われたセリフが蘇る。

 昨日と同じようなことが、中学時代にもあった。私がバレー部のキャプテンを任された二年の二学期のことだ。私は、必死にみんなをまとめていた。そのつもりだった。けれど、それは私の勘違いだった。

 副キャプテンを務めていた、当時親友だと思っていた子が、涙で瞳を濡らしながら私に冷たく鋭い視線を向けた。そして言った。私は、ガラスみたいな人だと。

 消し去りたい過去に、まぶたを閉じて机に突っ伏す。

 どういう感情からこんな気持ちになるのか、未だにわからない。ぐちゃぐちゃで、苦しくて、体の中だけを縛り上げられているみたいに苦しくなる。胃が萎む。

 だめだ。

 ぎゅっと目を閉じてから開き、体を起こした。