楽しみですってなんだ。
自分で自分の書いた内容に思わず突っ込みを入れてしまった。しかも、朝返事を靴箱に入れてしばらくしてから、ひとり教室で悶える。
あの交換日記の中の私は、普段の私よりテンションが高くてキャピキャピしているような気がする。自分を〝ななちゃん〟だと思って書いているからだろうか。
だめだな、落ち着かないと。
ぺちぺちと頬を軽く叩いて普段の自分に戻らなければと意識する。そんなことを朝からずっと続けてしまった。今日の昼休みもまだ先輩がノートを受け取っていないことも原因に含まれる。三年は一足先にテスト期間に突入したからだと思うので、明日の朝まで返事はないに違いない。でも、一応帰りに靴箱を見てみようかな。
「じゃあまた明日ー」
授業が終わって教室に残っている希美と優子に声をかけると、「生徒会がんばって」と笑顔で送り出してくれた。
希美とは、あれからも瀬戸山の話はしていない。今までの私なら希美に合わせて黙っていても、内心イライラしていたことだろう。優子みたいにはっきりと嫉妬を口に出されたら、キツいことを言ってしまったに違いない。
けれど、今は仕方ないもんな、と流すことができている。それは、先輩との交換日記と、先輩との会話のおかげだ。
「あれ、江里乃ちゃん」
軽い足取りで渡り廊下を歩いていると、目の前から二ノ宮先輩がやってくる。肩にギターケースを持っていた。
「先輩、なにしてるんですか」
テストは午前中で終わったはずなのに。
「帰っても暇だから、ひとりで遊んでた。いい天気だから中庭に行こうかなと思ってたところ」
そう言って、ギターケースをひょいっと持ち上げる。中庭でギターを弾くつもりのようだ。人が集まりすぎなければいいけれど。
「それに、ちょっとすることもあったからね」
ふふっと秘密を楽しむみたいに口元を緩ませた先輩に、小さく体が震えた。それって、交換日記のことだろうか。先輩もやりとりを楽しみにしてくれているのかと思うと、うれしい。
「どうかした?」
「いえ、なんでも」
私まで口元がへにゃっと緩みそうになるのを耐えていると、先輩が不思議そうな顔をしてのぞき込む。顔をそらして興味なさそうに返事をするけれど、変に思われていないだろうかと心臓が騒がしくなる。露骨な反応を見せてしまうとばれてしまうかもしれないのに。