放課後、次の日の朝、昼休み、と来たら、放課後には返事があるだろう。

 生徒会室に着いたばかりだというのに、早く返事を受け取りたいとそわそわしている自分がいた。

 匿名という気楽さからか、今まで誰にも言えなかったことを、ノートの私はすらすらと伝えることができている。

 優子や希美には絶対に言えない。だって、ふたりにとって私は嫉妬の対象だ。「なんでそんな気持ちになるの?」「恋愛ってそれでも楽しいものなの?」なんて聞いたら嫌み以外のなにものでもない。
 それに、私は恋愛の話になると昔から『江里乃は恋愛なんて余裕でしょ』と言われることがある。よくわからないし、片想いの経験もないから黙ってふんふんと聞いているだけなのに、まわりにはそれが〝余裕〟に映るらしい。

 相手が私になんの先入観もない、というのはなんて楽なのだろう。それに、先輩は決して私を否定しない。

 集中力がない自分に気づき、軽く頭を振って気持ちを切り替えた。

 今は手元のリストをまとめてさっさと終わらせよう。

「ねえ、佐々木さん」

 今度の高校入試日のスケジュールを組もうと思ったけれど、必要なものが足りないことに気がついた。書記の佐々木さんに声をかけると、大きな瞳が私に向けられる。一年生で、ふわふわした雰囲気の女子だ。内巻ボブがふわんと揺れる。

「試験に使う教室のリスト、お願いしてたよね? どこにある?」
「え? あ、あ!」

 一瞬きょとんとしてから、はっとして大きな声を出す。

「すみません、えっと、あの、来週には……」
「頼んだの先週なんだけど。試験ももう二週間後だよ?」

 へらへらと笑いながら謝られて、つい口調がキツくなる。

 今日中に試験で使う教室の掃除や準備の段取りをして、週明けには美化委員や手伝ってくれる生徒に渡すためのプリントにしておきたかったのだけれど。

 でも、これ以上責めたところで、彼女から資料が出てくるわけではない。桑野先生はテニス部の顧問なので、今の時間、職員室にはいないだろう。

「月曜日は絶対用意しておいて。あと面接会場もね。それとついでに三年生の送別会のことも、なにか確認事項がないか、桑野先生に訊いておいて」
「わかりました!」

 元気な返事に、なぜか不安を覚える。

 ……メモもとってないけど、大丈夫だろうか。

 佐々木さんはやる気はあるもののミスというか、うっかりが多い。それを指摘してもいまいち伝わっている気がしない。さすがに同じミスを続けることはないと思うけれど。

「しっかりしてね」

 最後に釘だけ刺して、鞄とコートを手に取った。

「松本、帰るのか?」