残念だけれど、交換日記の返事は明日の朝かな。かなりテンポよくやりとりをしていたので、なんとなく落ち着かないけれど仕方がない。

 渡り廊下に出ると、冷たい風が私たちに襲いかかってくる。

「うわ、寒! 駅前のホットミルク飲みたいー。でもそれだと買い物する時間減るかなあー。途中でカフェに行くほうがいいかも? どうする希美?」
「ん、んー。どっちでもいいかなあ」
「あ、でた! 希美のどっちでもいい!」

 希美の十八番だ。それを茶化すと、希美は必死になって「えっとじゃあ、えー、えー?」と考える。それがかわいくてけらけらと笑ってしまう。

「おい松本、そんなに黒田をいじめるなよ」

 横から不機嫌そうな声が聞こえてくる。視線を向けると瀬戸山がむっつりとした表情で私と希美を見ていた。怒っているというか、私と希美の仲に嫉妬しているように見えた。本当に瀬戸山は希美のことが大好きだなあ。

「どうしたの、瀬戸山くん」
「自販機行く途中。松本の笑い声が聞こえたから」
「希美とデートする私が羨ましいんでしょー?」

 あからさまにつまらなさそうにしている瀬戸山をからかうと「そうだよ」とあっさりと認められた。反応がつまらなくて、つい口をとがらせてしまう。素直すぎてからかい甲斐がない。

「松本はランニングしなきゃいけねえんだろ。あんまり遅くなんないようにな。日が落ちるのも早いんだし」
「わかってるよ。大丈夫だって」

 希美の帰りまで心配するなんて、溺愛してるんだなあ。

「じゃあ、また明日な」
「あ、うん、ばいばい」

 瀬戸山は希美のお団子頭にぽんっと手をのせて、やさしい声色で声をかける。希美はほんのりと頬をピンクに染めて、恥ずかしそうに頷いた。そんなふたりの仲睦まじい様子に、見ている私が照れてしまう。

 瀬戸山と別れて再び希美とふたりきりになると、「瀬戸山、いい彼氏じゃん」とにやにやと笑って耳打ちをした。

「あ、え? あ、ああ、うん」

 てっきり真っ赤になってあわあわするかと思ったのに、希美は私の声が聞こえてなかったのか、よくわからない相づちを打つだけ。

「江里乃、瀬戸山くんと、仲良くなったんだね」
「……え? いや、別にそんなことは」

 なんで、そんなことを?

 希美は「あ、うれしいなって!」とはっとした顔をして言葉を付け足した。

 そんなわかりやすい態度をされると、反応に困る。

 なんて返事をすればいいのかと頭をフル回転させたけれど、「どこ行こっか」と希美は話題を変えた。
 その後の希美は、心なしいつもよりもテンションが高く感じた。それは、なんだかすごく不自然で、居心地が悪かった。