あの人、いつ見ても遊んでるけど、卒業までに好きな人に歌を贈るんじゃなかったっけ? 練習しているんだろうか。いや、そもそも歌詞ができていないのでは。

 まあ、余計なお世話だろうけれど。

 こうして見ていると、あそこで遊んでいる二ノ宮先輩は告白しようと思うほどの恋心を誰かに抱いているようには見えない。

 グラウンドからドアのほうに視線を向けると、優子と希美が、米田くんと瀬戸山が、それぞれ恋人と一緒にいる。みんな、幸せそうな顔をしていた。

 あの四人も、恋をしているんだなあ。

 あんなふうになりたいから、好きな人ができると想いを伝えたくなるのだろうか。その気持ちがわかった、というわけではないけれど、なんとなく理解はできた。

 もしかすると、人を好きになると告白しないままでいることのほうが難しいのかもしれない。相手が誰であれ、どんな関係であれ。

 ……私は、どうだったのだろう。

 今までつき合った彼氏のそばにいるとき、希美たちのような幸せそうな顔をしていたのだろうか。今までの彼氏みんな、好きだから付き合ったわけではなかった。告白してきてくれたから、付き合っただけ。それでも、その日々の中で相手のことを好きだと、そう思うときもあった。

 なのに、自信がない。

 じいっと四人を、いや、二組の恋人たちを見ていると、希美が瀬戸山から離れて戻ってくる。瀬戸山は米田くんと優子のそばに移動して三人で話し始めた。 

「もう用事終わったの?」
「うん。CD貸してくれただけ。今日は江里乃と帰るでしょ? だから」

 希美の手元には、おどろおどろしいカバーのCDが二枚。ふたりは音楽の趣味が一緒らしく、こうして貸し借りをしている。今日は久々に生徒会の用事がない私と希美と一緒に帰る約束をしていたから、わざわざ昼休みに届けてくれたらしい。

 普段は瀬戸山の家に行くことが多いらしいけれど、部屋では水曜のお昼休みにかかるような音楽が流れているのだろうか。

 ……ムード出るの、それ。

「どうしたの?」
「あ、いや、なんかいいなあって思ってさ」

 なにが? と希美がきょとんとする。

「恋が? とか? なんかそういうの」
「ど、どうしたの? 江里乃がそんなこと言うなんて……!」

 まるで変なものでも食べたんじゃ、と言い出しそうなほど驚き狼狽する希美に、慌てて「そのくらいふたりが幸せそうだったってことよ」とごまかした。

 希美でも私がこんなこと言い出したらびっくりするのだ。ノートを見られたら卒倒するかもしれない。刺繍の趣味より隠し通さなくては。

 ウソや隠しごとは極力しない主義なのに、なんだか最近ひとつふたつと重なってきている気がした。




 放課後、SHRが終わってすぐに希美と靴箱に向かった。久々に一緒に帰れるので、途中で買い物もする予定だ。