「私とまったく違う考えの人なんだなあ」
私にはなかなか真似できない思考だけれど、たしかにそういう考えもあるかと思わされる。それをすっと受け入れられるのは、この交換日記のせいなのか、それとも先輩のことを知っているからなのか。今までの私なら「意味わかんない」「理解できない」と一蹴してしまっていたような気がする。
返事は放課後にしようとポケットにノートを入れて、そそくさと靴箱をあとにした。ぱたぱたと階段を駆け足でのぼっていると、見覚えのある男子ふたりの後ろ姿に気がつく。米田くんと瀬戸山だ。
「あれ? 松本さんじゃん」
後ろに目でもあるのかというタイミングで、米田くんが振り返る。
「ふたりして愛しい彼女に会いに行くところ?」
「やだなあ、恥ずかしいじゃんー」
「さっき黒田の放送が終わったから、そろそろ教室にいるかなって」
へへへっと米田くんが目尻を下げて答え、瀬戸山は天井を指さして言った。ふたりとも本当に彼女のことが大好きなのだとわかる。特に瀬戸山は希美にベタ惚れって感じがする。あの瀬戸山を虜にするとは、さすが希美だ。
「あー階段つらー」
米田くんがひいひい言いながらのぼる。このくらいで息を切らすなんて。
「運動不足過ぎるんじゃない? 部活でも入れば?」
「えー。そういう問題? セトも松本さんも帰宅部なのにー?」
「私は鍛えてるから」
ふふん、と胸を張ると、瀬戸山が「なにしてんの、意外」と言った。
「中学まではバレー部だったし、たまに週末ランニングしたりしてる」
まじでー、ふたりが声を合わせた。
「いいな、ランニング。俺もしよっかなあ」
「えー、セト本気かよ。おれはぜってえしねえ!」
米田くんは「マラソン嫌いなんだよ。持久力ねえもん」と頭を振っている。それに対して瀬戸山が「おまえにないのは持久力じゃなくて忍耐力だよ」と突っ込んでいた。ふたりの仲のいいやり取りに、くすくすと笑ってしまう。
「優子ー、希美ー、彼氏が来てるよー」
教室に着いてふたりに呼びかけると、「珍しい三人組じゃん」と優子がやってくる。ワンテンポ遅れて、瀬戸山の言ったように放送室から戻ってきていた希美が「どうしたの?」と近づいてきて瀬戸山に訊いた。
二組の恋人同士の邪魔をしないように、さっきまでお昼を食べていた希美の席にひとりでつく。ほかの友だちは教室の後ろで別の友だちと盛り上がっていた。
窓際の席は、グラウンドがよく見える。
……やっぱり目立つなあ。
バスケットゴールの前で五人くらいが集まっている。その中に、ひとり光を放つ髪型の二ノ宮先輩がいた。
試合をしているわけではなさそうだ。順番にシュートを狙っているだけらしい。それだけでもかなり体があたたかくなるのか、先輩はカッターシャツも脱いで半袖のTシャツ姿だ。