わざわざ話しかけてきて謝るなんて、素直というか馬鹿正直というか。

 希美と瀬戸山がつき合ったのは、一ヶ月ほど前。二学期の期末テスト最終日だった。瀬戸山は教室に乗り込んできたと思ったら、クラスメイトがいる教室で希美に好きだと大声で言ったのだ。

 あれは、今でもときどき話題になるほど衝撃的な告白シーンだった。けれど、私からすれば瀬戸山の告白なんかより、自分の意見を口にできず、目立つことが苦手なあの希美が、あの場で自分も瀬戸山のことが好きだと言ったことのほうが驚いた。

 恋は、ここまで人を変えるのかと。

 あの、人の気持ちを優先してばかりの希美が、まわりを気にすることなく自分の意見を口にできるのかと。

 私のほうがずっと希美のそばで過ごしてきたのに、とちょっと瀬戸山に嫉妬してしまったくらいだ。

 でも、あの瀬戸山が。

「まさか、はじめは私のことが好きだったなんてね」

 誰もいない廊下で独りごちる。と同時に苦笑をこぼした。

 希美からその話を聞いたのは、二学期終業式の数日前だった。『話があるの』とどこか沈んだ声色で電話をかけてきて、次の日に会う約束をした。

 話し始めるまで希美は沈痛な表情をしていたから、どんな告白をされるのかと思ったら、ふたりのなれそめだったのだから拍子抜けした。けれど、同時にそういうことか、とも思った。

 きっかけは、選択授業のときに受け取った瀬戸山からのラブレターだったらしい。けれど、それが実は私宛てだったようで、じゃあなんでそれを希美が手にしたのかと言えば、瀬戸山の席を使っているのを私だと勘違いしただとか。

 なにがどうなってそうなったのか。希美の説明ではなにかいろいろ勘違いが重なったと言っていたけれど、しどろもどろでよく理解できなかった。

 でも、たぶんだけれど、瀬戸山は本当に私が好きだったわけではないと思う。もともと希美のなにかが彼の琴線に触れて、それをなぜか瀬戸山は私なのだと思い込んで、確認もそこそこにラブレターを書いて、希美がそれを受け取り、なんやかんやあって結局うまいことまとまったのだろう。

 そんなことを、わざわざ私に説明をしなくてもいいのに。

『でも、はじめは江里乃宛てだったのに、わたしがウソをついて、それで瀬戸山くんと仲良くなっちゃって』

 そう言って、希美は申し訳なさそうに頭を下げてごめんを繰り返した。

 ラブレターの前なのかあとなのかはわからないけれど、希美は瀬戸山のことが好きなんだろうな、と私は気づいていた。それに、私が瀬戸山のことを好きだったことは一度も、一瞬もない。女子に人気の瀬戸山の存在は知っていたけれど、話したことのない相手だ。万が一、告白されていたらつき合っていたかもしれないけれど、親友の好きな相手とつき合うつもりは微塵もない。

 ただただ、親友が好きな人と結ばれてよかったなと思うだけ。

 ……でも。

「なんで瀬戸山はそんなラブレターを書いたんだか」

 相手が私であろうと希美であろうと、彼はどちらとも話したことはなかったはずだ。そんな相手になんだって告白しようと思ったのだろう。女子に人気の自分ならフラれるはずがない、とか? いや、瀬戸山はそんなタイプじゃなさそうだ。

 机に座って、真剣に考えてみるけれど私にはわからなかった。